東京ヴェルディがリブランディング、デザイン界の大御所ネヴィル・ブロディを起用

羽生英之東京ヴェルディ社長が新ユニフォームとデザイナーのネヴィルを紹介。著者撮影

 サッカーJ2の東京ヴェルディは今年、クラブ創立50周年を迎える。有力選手を擁してJリーグの初代チャンピオンとなり、数々のタイトルを獲得したイメージが強いが、J2降格や親会社の撤退、経営危機、本拠地移転などに見舞われ、栄光と挫折を味わっている。先シーズンもあと1勝でJ1昇格というところまでいきながらもかなわず。けれども、再生に向けて着実に上向いているように見える。

 そんな東京ヴェルディがリブランディングを図り、サッカーを超えたブランドビジネス''へと変貌を遂げようとしている。総合型クラブ化の一環として、昨年10月、アマチュア軟式野球チーム「東京バンバータ」と業務提携し、新たな競技として野球に参入。さらに、1月19日には新ユニフォームと新しいロゴデザインを発表した。TOKYOを舞台に世界に誇るクラブへと進化'''するビジョンをヴェルディのVのモチーフで表現した。

新ロゴデザインは伝統の始祖鳥をシンプル化するとともに、ヴェルディとヴィクトリー(勝利)のVのマークを躍動感あるものとした
新ロゴデザインは伝統の始祖鳥をシンプル化するとともに、ヴェルディとヴィクトリー(勝利)のVのマークを躍動感あるものとした
新しいエンブレム
新しいエンブレム

 

始祖鳥をモチーフにした従来のマーク
始祖鳥をモチーフにした従来のマーク

 お披露目ではサッカー、野球だけでなく、バスケットボール、ビーチバレーボール、柔道など10以上の競技の選手が登場し、総合スポーツ事業として歩み出したことが可視化された。

総合スポーツ事業化は着々と進み、ヴェルディ所属はすでに16チームに拡大している
総合スポーツ事業化は着々と進み、ヴェルディ所属はすでに16チームに拡大している

 リブランディングをけん引するのは、「東京ヴェルディ・バンバータ」のゼネラルマネージャーでもあり、“クリエイティブ総合商社”を目指すアマダナ(amadana)を率いる熊本浩志社長と、その子会社・アマダナスポーツエンターテインメント社だ。彼らがデザインを託したのは、イギリス出身のデザイナー、タイポグラファー、アートディレクターのネヴィル・ブロディだ。

 クリエイティブ・エージェンシー「ブロディ・アソシエイツ」を率いるブランドストラテジストでコンサルタントでもある。パソコンの黎明期からコンピューターグラフィックを駆使。1980年代に「The Face」誌のアートディレクターとして頭角を現し、さまざまなレコードのカバーや雑誌をデザイン。MoMAに収蔵されるタイポグラフィを開発したり、LVMHルイ・ヴィトン モエ・ヘネシー傘下のファッションブランドやナイキサムソンタイムズ紙のロゴやフォント、BBCウェブサイトのリデザインを手掛けてきた人物。“イエロー・ペンシル”の名で親しまれる世界的デザインアワードでも知られるD&ADの前プレジデントで、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのコミュニケーションアート&デザイン教授も務めている大御所である。彼が新デザインに込めた想いや、そのクリエイティブなアプローチ方法を聞いた。

ネヴィル・ブロディ氏
ネヴィル・ブロディ氏

 ――東京ヴェルディの新デザインの打診を受けた際の第一印象は?

ネヴィル・ブロディ:驚いた。フットボールのイングランド代表チームのユニフォームをデザインしたことはあるが、普段はあまりスポーツビジネスを手がけていないので、とてもいい機会をいただいた。30年来の親友、柴田(廣次アマダナ・チーフクリエイティブオフィサー)さんと一緒に仕事ができるのが楽しみだった。彼はストレンジでクレイジー。だから面白いことができると思った。

  *ネヴィル氏は1990年、渋谷パルコで展覧会を開催。アップルが協賛したそのイベントを担当したのが柴田氏だった。

 ――日頃のクリエイションにも通じると思うが、どのようなアプローチやプロセスでアイデアを形にしていったのか?

ネヴィル:私たちはどんなプロジェクトも徹底したリサーチから始める。数ある日本のスポーツチームはもちろんのこと、世界のスポーツチームやスポーツビジネス、スポーツブランドもメディアブランドも、今の東京という街も、包括的に検証した。並行して、東京ヴェルディの歴史を振り返った。そこから、時代に合わせてモダナイズをすることと、たくさんのアクティビティがあるので仕組みとしてモジュール化をすることが大切だと考え、実験的にデザインをしながらクリエイティブなものに仕上げていった。

 ――テーブル一杯に広がる巨大な“巻物”を見せてもらったが、正直、驚いた。そこには百以上の多彩なデザイン案が描かれていた。

ネヴィル:多くの代理店やデザイナーは絞り込んだ2~3案をプレゼンするが、私は考えられるすべてを出して、方向性は持ちつつも、皆でディスカッションしながらゴールを目指せるようにしている。簡単ではないが、本当にクリエイティブなものにするためには大切なプロセスだ。押し付けるのではなく、すべての可能性を提供して差し上げることがクライアントへのリスペクトであり、感情や意思などを共有しながら進めるのが正しい手法だと思っている。徹底したリサーチに基づいて作り上げた骨格と、柔軟な展開や運用ができるようなシステムを構築する一方で、将来に向けて成長するための余白や不完全さを尊重することもブランディングにおいては大切なことだ。

ネヴィル氏による新エンブレム
ネヴィル氏による新エンブレム
エンブレムと連動したイニシャルマークを開発
エンブレムと連動したイニシャルマークを開発
ネヴィル氏によるオリジナルフォント
ネヴィル氏によるオリジナルフォント

 ――今回、新デザインをするうえでとくに意識したことは?

ネヴィル:クリエイティブであることと、シンプルであることだ。ブランドはかつては静止的で伝統や権力などを象徴するものが良しとされてきた。けれども近年はクリエイティブであるかどうかが重要視されている。これからのブランドは自らストーリーを発信しなければならず、タイプフェイス(書体)やフォント、色、サイズそして言葉そのものなどすべてがブランドや企業の顔となるものであることが大切だ。また、デジタル化に対応し、スマートフォンからユニフォーム、スタジアムの旗まで大小のスケール感が異なったり、バーチャルなものからフィジカルなものまで、柔軟に対応できるようなものにした。今はよりシンプルなコミュニケーションデザインが必要な時代だ。

 ――2014年には「ディオール」のロゴのリブランディングも手掛けたが、最近、ファッション業界では「セリーヌ」に続き「バルマン」「バーバリー」までサンセリフ体にロゴを変更するブランドが相次いでいる。この動きをどう見るか?

ネヴィル:シンプル化は今のトレンドだが、同質化している。何が必要なのか、削ぎ落してはいけない本質的なものは何なのかを見極めなければならない。特に「バーバリー」についてはもの申したい。今回の刷新で個性を失い、普通のブランドになってしまったのがとても残念だ。リブランディングは本来、よりクリエイティブになるためのものだ。

 ――東京ヴェルディはTOKYOという大いなるローカルを拠点とし、世界にブランドを発信しようとしているが、東京の感想は?

ネヴィル:世界中の大都市がフラットになり、面白さが薄れている。東京は大好きな街で何度も通っているが、かつてのクレイジーさや独創性、何か冒険のようなワクワクするようなことや人が少なくなってしまった気がする。ポジティブな面としては、食がすごく進化している。でも、ファッションは落ち着きすぎて人もすごくフツウになってしまった。1990年代には、山本耀司、イッセイミヤケ、コシノファミリー、高田賢三などのデザイナーが活躍し、世界から見ていてもエネルギーやクリエイティビティが爆発していた。パルコのようなデスティネーションもたくさんあった。本当にクリエイティブな人やファッションがあり、それを紹介する場でもあった。何よりも渋谷を作ったという偉業がある。渋谷のパルコは今秋生まれ変わるというが、どんな形でもう一度エネルギーを発揮するのかが気になる。

 ――ネヴィル氏はデジタル・デザインの先駆者だが、デジタル化によりデザインはどう変わったと思うか?

ネヴィル:80年代、世の中がデジタル化する10年前からレコードのカバーやマガジンのデザインを始めていた。当時は新しい表現やクレイジーなクリエイティブが可能になり、表現方法が豊かになった。今はデジタルのメリットはソーシャルメディアがすべてになっている。若い人々もミレニアルズはデジタルネイティブでデジタルツールを当然として使っているが、新しいものを生み出しているわけではない。興味の対象が自分に向かっている。フェイスブックは全然面白くないし、インスタグラムはエゴ発信場所になってしまっている。学生たちにも、SNSや居心地の良い現在のシステムから離れて、新しいシステムや新しい表現を考えるようにアドバイスしている。

 ――東京ヴェルディはこれからどんなブランドに広がっていくと期待しているか?

ネヴィル:ファッションブランドというよりも、エンターテインメントや余暇を楽しむレジャーブランドになると想像している。新しい考え方や思想、形などでレジャーウエアにどう新しい価値を生み出すのか楽しみだ。スポーツブランドがメンズウエアを作ったり、ファッションブランドがスポーツブランドを創るなどファッションとスポーツを融合するトレンドがあるが、洗練されていて機能性がありリラックス感もある、新しいレジャーウエアになることを期待している。