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いまの日銀に必要なのは金融政策の正常化に向けた行動にある

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 植田日銀総裁は4月の就任挨拶で、マイナス金利は金融機関の収益への影響は大きいとして、副作用を認めながらも、「基調的なインフレ率がまだ2%に達していないという判断のもとでは継続するのが適当だ」として、当面は、こうした政策を継続する考えを示した。

 7月7日に内田副総裁は日経新聞のインタビューでマイナス金利について以下のように答えていた。

 「もし解除するなら実体経済面の需要抑制で物価上昇を防ぐのが適切と判断したということになる。0.1%の利上げだ。今の経済物価の情勢からみると、その判断には大きな距離がある」

 そして、9月9日の読売新聞とのインタビューで、植田総裁は「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になれば、大規模な金融緩和策の柱であるマイナス金利政策の解除を含め、いろいろなオプション(選択肢)があると語った。

 植田総裁はマイナス金利の解除後も物価目標の達成が可能と判断すれば「やる」と発言していてた。また、ビハインド・ザ・カーブを積極的に許容するというわけではないとも発言していた。

 7月から9月にかけての日本の物価動向が大きく変わっていたわけではない。日本の国内物価は高い水準が継続し、消費者物価指数は前年比3%台となり、米国の消費者物価指数をも上回った。

 何か変わったのかといえば、外為市場の円安の進行である。日銀は7月に長期金利の上限を実質的に1%に引き上げ、日本の長期金利はじりじりと上昇していたが、米長期金利も上昇しており、日米金利差は縮小せず、円安が進行していた。

 円安の根本的な要因に、日銀の金融政策の一方通行が挙げられる。金融政策の方向性そのものが正反対ならば、日銀金利差による円安は当然進む。

 FRBが利下げに転じれば別だが、FRBの政策金利が高い状況が続くとなれば、それによる円安にブレーキを掛けることは難しい。そのためには日銀が本来の金融政策に戻し、つまり正常化を行い、金融政策の双方向性と柔軟性、機動性を取り戻す以外にない。しかも時間を掛ければ掛けるほど、日銀の頑なな姿勢に対して市場は仕掛けざるをえなくなる。

 国内物価は予想以上に上昇しているという状況だけでも、物価の番人たる日銀が動かないといった選択肢はなかろう。

 もし9月9日の総裁インタビューが円安に対する口先介入であったのであれば、それによる効果は限定的となろう。必要なのは日銀が正常化を進めるという行動にある。それは大きな変化だという人がいるが、普通の金融政策に戻すのにどうしてそんなためらいが必要なのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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