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4月の日銀金融政策決定会合議事要旨では一人だけイールドカーブ・コントロールの弊害を指摘

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日銀は21日、4月27、28日に開催された金融政策決定会合の議事要旨を公表した。このなかのリスク要因について下記のような指摘があった。

 「物価の見通しについては、2023年度は上振れリスクの方が大きいが、2025年度は下振れリスクの方が大きいとの見方で一致した」

 当然ながら予測については手前よりもより先行きのほうが不特定要素も増えることで、より難しくなる。このため、金融政策を行う上では不確定な先々の予測に頼るよりも、より足元に近い予測のもとに行う必要があろう。

 ある委員は、物価見通しは幾分上振れているが、「2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク」より、「拙速な金融緩和の修正によって2%実現の機会を逸してしまうリスク」の方がずっと大きいと述べた。

 「2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスク」って何だろう。委員たちは2%の物価目標を実現するために金融政策を行っていたのではないのか。そもそも2%という数字そのものも過去の日本の物価動向からみて異様に高い水準ともいえる。それをほったらかしにして、すでに10年も異次元緩和を続け、「拙速な金融緩和の修正」とは何を言っているのか。異質な緩和を微修正すらしない態度にこそ問題があろう。

 「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)について、委員は、金融市場調節上の様々な工夫により、金融市場調節方針に沿って、長期金利はゼロ%程度で推移しているとの認識を共有した。」

 「工夫」とは「無制限毎営業日連続指値オペ」に代表されるものとなろう。、これは工夫とかではない。国債の流動性などを完全に無視した強制的な国債利回りを押しつけているだけである。

 「委員は、足もと、イールドカーブの歪みの解消が進んでいると指摘し、イールドカーブ・コントロールの運用を見直す必要はないとの見方で一致した。」

 この会合にてイールドカーブコントロールの修正を見送った理由か。むしろ、イールドカーブの歪みの解消している間に修正すべきということは頭にはなかったようである。

 「この間、ある委員は、国債金利の指標金利としての機能度など、市場機能は依然低いままとの声が多い点を指摘した。そのうえで、この委員は、イールドカーブ・コントロールは、円滑な金融を阻害している面も大きいと感じており、見直しを検討してもよい状況にあると考えているが、国際金融市場の状況を踏まえるともう少し様子をみることが適当であると述べ、今後の債券市場サーベイ結果に注目していると付け加えた。」

 どうやら、ひとりだけ債券市場を気に掛けてくれている委員がいたようだが、しかし、この会合で反対票を出すことはなかった。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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