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日銀の物価の見方が良くわからない。金融政策の現状維持ありきの見方にしか見えないのだが

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日銀は8日に日銀金融政策決定会合議事要旨(3月9・10日開催分)を公表した。

 物価面について、ある委員が、2月の東京都区部の消費者物価は、予想通り、プラス幅がしっかりと縮小したと述べていた。

 この発言はおかしい。日銀の物価目標となっている全国消費者物価指数の2月分は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数(コア)は前年同月比で3.1%の上昇となった。1月の4.2%の上昇から大きく上昇幅を縮小させた。

 この点だけでみれば、「予想通り、プラス幅がしっかりと縮小した」といえる。昨年の1月以来、1年1か月ぶりの伸び率鈍化となっていた。

 ただし、これは「予想通り」、政府による電気・ガス料金の抑制による影響が大きかった。電気・ガス料金の抑制策と合わせた政策効果が、生鮮食品を除く総合指数の前年同月比伸び率を1.2ポイント押し下げたからである。

 ただし、単純計算すると、政策効果がなければ前年同月比4.3%の上昇となり、1月の4.2%から伸び率が加速していた計算となる。

 プラス幅が数値上はしっかりと縮小していたが、政策効果がなければ伸び率がむしろ加速していた。これを考慮すると奇妙な発言にみえた。

 議事要旨には「一人の委員は、企業の価格転嫁の動きが続いていることや、サービスの価格も次第に上昇ペースを高めてきており、持家の帰属家賃を除くサービスの価格は、前年比1%台後半まで上昇している点に注目している」という発言もあった。

 総務省が4月28日に発表した東京都区部の4月の消費者物価指数で、賃金上昇の影響をより受けやすく、消費者の実感に近い持家の帰属家賃を除くサービスは3月の前年同月比2.3%増から4月は同2.6%の上昇となっていた。すでに2%を超えてきている。

 「複数の委員は、一旦プラス幅を縮小した物価が再び2%に向けて伸びを高めるためには、粘着性の高いサービス価格の持続的な上昇が重要となるとの見方を示した」

 まったく何を言っているのかわからない。2月の消費者物価は一旦プラス幅を縮小したが2%は遙かに超えている。粘着性の高いサービス価格も帰属家賃を除くサービスでみれば、2%を超えてきている。

 これがあと5年も10年も続くと判断しないと、このまま異次元緩和を続けるつもりなのであろうか。日銀の物価の見方が良くわからない。金融政策の現状維持ありきの見方にしか見えないのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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