資産運用での注意点、投資の際には利回りの高さの背景となるリスクを把握する必要があるが
コーエーテクモホールディングスの広報担当者によると、同社は2023年3月期決算でクレディ・スイスのAT1債の保有に関連して41億円の損失を計上した。余裕資金の運用などを指揮する襟川恵子会長が24日の決算説明会で明らかにしたとしている(25日付ロイター)。
クレディ・スイスのAT1債は3月、スイスの銀行大手USBグループによる同社の買収合意を受け、約160億スイス・フラン(約2兆4200億円)相当が無価値になった。
AT1債は発行体である金融機関の自己資本比率があらかじめ定められた水準を下回った場合などにおいて、元本の一部または全部が削減される、いわゆるトリガー条項を有する債券となる。
スイス政府が流動性などに関する特別な支援を可能とする措置を講じており、これがクレディ・スイスのAT1債の元本削減のトリガーとなったようである。当該支援がトリガーとなる旨はAT1債の条項にあらかじめ含まれていた。
日本経済新聞は15日、「AT1債、国内富裕層に」という記事で、「三菱UFJモルガン・スタンレー証券が経営危機で無価値となったスイス金融大手クレディ・スイス・グループの永久劣後債(AT1債)を約950億円分、国内の個人投資家などに販売していたことが14日、わかった」と伝えた。
AT1債は2008年の金融危機後、金融規制を強化する中で導入された。財務が大幅に悪化した場合などに元本が削減され、資本増強に充てられる。資本規制上、自己資本の一部に算入可能なことから発行が相次いだ。通常の社債よりも利回りが高く、投資家に人気だったという
クレディ・スイス・グループのAT1債が無価値となったあと、三井住友フィナンシャルグループ(FG)は1400億円規模のAT1債(永久劣後債)を発行すると報じられた。
それだけ発行体にとっても、投資家にとっても、ニーズのある金融商品ということであろう。むろん三井住友フィナンシャルグループのAT1債を購入する投資家は、トリガー条項などをしっかり把握して投資対象とするものとみられる。
ただし、個人がそのようなトリガー条項を把握できているのかといえば、難しい問題もあるのではなかろうか。
日本では金利がほとんど付かない状態が続いており、少しでも利回りの高い商品に飛びつく個人投資家も多いのではなかろうか。ただし、高い利回りはそれだけのリスクが内在されていることに十分注意すべきである。
ただし別途注意する必要があるのは、その利回りのベンチマークとなっている国債の利回りを日銀が強制的に押さえつけているという点である。基準がおかしいとリスクの判断もできなくなってしまう。