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日銀は社債市場の機能も低下させた

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 国内企業が満期の短い社債の発行を増やしている。償還期限まで5年以下の起債額は2022年度に7兆円超と過去最大となった(9日付日本経済新聞)。

 中短期の社債発行が増えているのは、日銀の金融政策の先行きが不透明だからとされる。これは発行体の都合というよりも、投資家が日銀による今後の政策修正を意識しており、満期の長い債券の購入を控えているためともいえる。

 満期まで5年以下の中短期の社債発行額は22年度に約7兆3000億円と、21年度から3割増えた。アイ・エヌ情報センターによると、データを遡れる1998年度以降で過去最高となった。一方、5年を超えるような長めの社債の発行額は4割減の5兆円と、5年ぶりの少なさだった(9日付日本経済新聞)。

 ただし、日銀の異次元緩和における長期金利コントロールによって、債券の利回りはかなり歪ものとなっており、特に10年債の利回りが実勢から乖離するなどしたことで、債券の利回りのベンチマークが機能していないなか、どうして社債の発行が増加したのか。

 これには日銀が社債買い入れオペ(公開市場操作)で短い年限の社債を買ったことも、企業の起債を後押ししたとされる。

 日本経済新聞による『社債市場、「日銀トレード」横行 取引半減で機能低下』という記事では、利回りのない社債でも投資家が買ったのは、「それよりも低い利回り(高い価格)で日銀が買う」という前提があったためだとの指摘があった。

 また、この記事では、「日銀が企業の調達を助けるために、投資家の収益機会を徹底的に潰した面は否めない」とニッセイ基礎研究所の徳島勝幸研究理事の指摘や、「信用リスクが意味を持たなくなり、市場の価格発見機能が阻害された」との土屋アセットマネジメントの土屋剛俊社長による指摘もあった。

 短い社債の発行が増加したのは日銀という買い手が存在していたためであり、発行額は増加しても取引高は減少していたのである。つまりそれだけ市場機能が失われていたということになる。日銀が機能を破壊したのは国債市場だけではなく、社債市場においても同様であった。

 市場に委ねるべき価格形成機能を奪い、企業の資金調達を安易にさせた半面、投資家の収益機会を徹底的に奪うということを日銀は行ってきた。この投資家というのは、巡り巡ると我々個人の収益にも当然影響することになる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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