Yahoo!ニュース

インフレと金利上昇で消えたMMT

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 一時、MMT(現代貨幣理論)という理論がメディアなどでも取り上げられた。書店でもMMTに関する書籍が並ぶなどしていたが、どうやら一時的な流行に止まったようである。

 MMT(現代貨幣理論)とは、現代貨幣理論とも呼ばれる新たな経済理論で、従来の主流派経済理論とは大きく異なるとされている。

 MMT(現代貨幣理論)とは、「自国通貨を発行できる政府は、インフレにならない限り、大量の国債発行をある程度許容する」といった主張を持った経済理論とされる。

 ここで注意する必要があるのは、「インフレにならない限り」という部分ではなかろうか。

 2021年中頃から、欧米の物価指数が上昇し始め、2022年に入りそれが加速してきた。つまりインフレが発生したのである。

 このインフレのきっかけが新型コロナウイルスの感染拡大であった。人や物の移動が途切れなどしたことで、経済に下押し圧力が掛かり、政府は積極的な財政政策を打ち出した。さらに中央銀行も積極的な金融緩和策を推し進めた。このあたりまではMMTに即した動きとみる向きもあったかもしれない。

 ところが新型コロナウイルスへの過度な恐怖が後退し、経済が正常化に向かってきたことで、状況が変化した。モノやサービスの需要に対し、人手不足や物流の停滞などで供給が一時的に追いつかない事態が発生した(サプライチェーン問題)。これが物価上昇のきっかけとなった。

 そこにロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギー価格や原材料価格が上昇し、世界的な物価の上昇を促した。それに対して、欧米の中央銀行は積極的な利上げに踏み切り、金利は上昇した。

 MMT(現代貨幣理論)での「インフレにならない限り」ということは「金利が上昇しない限り」という言葉にも置き換えられる。

 金利も物価も当然上げ下げする。この理論はあくまで物価が低迷し、金利が上昇しないなかではいかにも正当化されるようにみえるが、あくまでそれは見せかけに過ぎない。リスクそのものはむしろ蓄積されることになる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事