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一部の10年債の利回りがマイナスに。これも日銀の異次元緩和の産物、日本の債券市場の機能はさらに毀損か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 3月10日の日本相互証券にて、日銀の10年カレントの指値オペの対象となっている368回債の利回りが、なんとマイナス0.020%に低下した。これは日銀がマイナス金利政策も続けたから、などでは当然ない。

 日銀の指値オペの対象となっているのは、10年カレントと呼ばれる新発債の期間が長い順に369回、368回、367回となっている。このうち368回の利回りがマイナスとなってしまったのである。ちなみに日銀の金融政策決定会合での現状維持を受けて369回の利回りも低下したが、こちらは0.445%となっており、10年債の利回り形成がおかしくなってしまっている。

 これは完全に需給バランスが崩れたためである。日銀が10年カレントを発行額以上保有するという状況となり、それはつまりヘッジファンドなど海外投資家が日銀の補完供給オペなどを経由しての空売りを行っていたためとされる。それを閉め出そうと日銀は補完供給の上限を引き下げ、貸出料を引き上げたのである。その結果、売り方がマイナス利回りでも買い戻せざるを得なくなったのである。

 これは空売りした海外投資家が悪いのか。これは当然といえる仕掛的な動きでもある。景気や物価などファンダメンタルズや海外の金利動向を完全に無視して異常な緩和策を続けている日銀に非があろう。

 昨年12月20日の決定会合での微調整によってさらなるYCC修正も意識され売り仕掛けが発生し、その結果、日銀は10年債カレントのほぼ全額以上を買い上げてきた。3月には入札で369回が再発行されていたが、それを含めても369回も9割程度日銀が買い上げたとされている。これによって369回も0.500%に張り付いていたのが、利回りが低下してきた。

 10日の日銀の金融政策決定会合で、日銀は異常な金融緩和の維持を全員一致で決定した。この日は植田和男氏を日銀総裁とする人事案が10日、国会で同意を得た。植田氏が総裁に就任するのは予定通りなら4月9日となる。

 それまで日銀は債券市場に対して異常な対策を採り続けることになる。それはつまり債券市場の機能をさらに毀損させかねない。債券先物は9日に中心限月が6月限に移行した。これから黒田日銀は債券市場との最終決戦を迫られることにもなりかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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