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日銀が0.500%で無制限指し値オペをしているのに、10年債利回りが0.545%まで上昇してきた理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 本日の10年債カレントの369回債の日本相互証券(Broker's Brokerとも呼ばれ、通称BB)で付いた利回りが、一時0.545%と0.500%を超えて上昇してきた。日本の債券市場で業者間の売買を日本相互証券で行っており、ここで付けた利回りが現物債の利回りとして市場で認識される。

 いわば日本の長期金利とは日本相互証券で付けた10年新発債の利回りのことを指す。その新発債の利回りが日銀が許容しているレンジの上限である0.500%を超えてきた。それはどうしてなのか。

 日銀は本日も10年新発債(カレント3銘柄、369回、368回、367回)の無制限での指し値オペをオファーした。つまり日銀が同銘柄を0.500%で無制限に買い入れるということになる。

 国債の利回りと価格は反対に動く。つまり10年369回の価格は0.500%のほうが0.545%よりも高くなる。当然、0.545%で売らず0.500%で売ったほうが高く売れる。それにもかかわらず、どうして0.500%より高い利回りで売る市場参加者がいるのか。

 日銀の指し値オペが入ったのに、10年新発369回債はBBで0.515%から0.545%での取引が続き、出来高も1000億円を超えている(13時現在)。

 日銀に対しイールドカーブコントロールの修正を迫るために、わざと付けにきたという見方もできなくはない。しかし、それなりの出来高もあり、それが主目的とは考えづらい。

 それならばどうして0.500%を上回る利回りで売る人がいるのか。その理由のひとつに369回を日銀による補完供給オペで借り入れ、それをBBで売却していることが想定されるのである。

 補完供給オペで借り入れた国債は日銀の指し値オペでは売れないというルールになっている。空売りは認めないということであろう。しかし、BBならば売ることはできる。

 売り方とすれば、日銀が再修正に追い込まれるという前提の上でのBBへの売却、これが補完供給オペで借り入れたものであれば、空売りとなる。

 つまり、再修正により長期金利のレンジの上限が0.75%とかに引き上げられるとか、もしくはYCCが撤廃されるとかすれば、例えば0.545%で売っても0.750%で買い戻せれば儲けとなる。そちらに賭けた取引ともいえる。

 YCCが撤廃されるとなれば、10年債カレントの利回りは1%を超えてきてもなんらおかしくはない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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