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1998年6月にドル円が140円台を付けた際、ドル売り円買いの日米協調介入が実施されたのは何故か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 9月1日のニューヨーク外国為替市場でドル円は一時140円23銭と1998年8月以来24年ぶりの円安ドル高水準を付けた。

 その24年前の1998年6月に円安が進行し、140円台に乗せた際には、日米による協調介入が実施されていた。なぜ米国は協調介入を実施したのか。そもそもどうして当時、円安が進行したのかを振り返ってみたい。

 1995年4月19日に東京外為市場では急激な円高ドル安が進行し、ドル円は79円75銭を付けた。バブルが崩壊し、海外投資や輸入が減少する一方で輸出は依然強く円高が進行したとされた。のちに2011年10月31日にドル円は75円32銭をつけて最安値が更新されたが、それまでは79円75銭が記録となっていた。

 そこからドル円は回復基調となるが、日本の不良債権問題によって今度は円安ドル高が進行した。金融システム不安から日本の景気が悪化するとともに、金融市場では不安感を強めた。そこに米国の強いドル政策が加わった。結果として強いドル政策によって1997年のアジア危機を引き起こすことになる。

 1997年末にはドル円は130円を突破。5年半ぶりに円買いドル売り介入が実施された。しかし、それによる効果も一時的なものとなり、1998年に入り2月から6月にかけてドル円は120円台から140円台に上昇してきた。

 6月11日には144円台、15日に146円台に上昇してきた。そして17日に協調介入が実施されて、ドル円は136円台にまで下落(円高ドル安)したのである。

 当日の米国大統領はビル・クリントン、そして財務長官はロバート・ルービンであった。

 そして日本での為替介入の指示を行っているのが財務省であり、実質的には財務官が指示を出す。このときの日本の財務官は榊原英資氏であった。その下の国際金融局長が、現在の日銀総裁の黒田東彦氏であった。黒田氏は1999年7月に「ミスター円」として知られた榊原英資の後任として財務官に就任している。

 クリントン政権下で1995年から財務長官を務めたルービン氏は「強いドルは国益」、「強いドルを支持する」という立場を明確に示唆していた。それがどうしてドル売りの協調介入に応じたのか。

 6月17日の協調介入について私は自分のサイトで下記のコメントを書いていた。

 「ついに日米の金融当局は、ドル高円安の動きを止めるべく円買い介入を実施してきた。日米首脳の電話会談で決められたようであるが、当然ながら米国主導の動きである。米政府はある程度の円安を容認してきた節がある、実際加速度的にドル高が進んだ理由のひとつが円安ドル高容認とも受け取れるルービン財務長官の発言であった。しかし、ドル円が146円台あたりまでくるとアジア諸国の金融市場に衝撃を与え、中国の元の切り下げの可能性も出てきた。大統領の訪中を控え、また、香港のこともあり、それに核に絡んだ問題も含め、米国政府は元の切り下げだけは是非避けたいとの認識が強まった。自国の株式市場も大きく下落するにあたって、その主因となっている円安阻止のための動きに出たようである。単独介入だけでは見透かされてしまうために介入のタイミングを見計らっていた日本にとってもまさに騎兵隊が来てくれたといったところであろう」

 手元にあった「ルービン回顧録」をざっとめくって当時の様子を書いたものがないかと探したが、こんな記述が見つかった(253ページ)。

 1998年6月の上院財政委員会で、ルービン財務長官が証言した際、市場介入は、「付け焼刃的な無対応にすぎず、抜本的な解決策にはならない」と発言した、ところが、この発言でドル円が跳ね上がってしまったのである。ルービン氏に横にいたサマーズ氏(当時、財務副長官)が、「もう少し介入の武器をちらつかせたほうが良いのではないか」とのメモをルービン氏に渡したそうである。

 「数日後、円はドルに対して値を下げ続けたので、私はいまが市場介入に妥当にときだと感じた。第一にドル円レートは許容範囲を遙かに超えていた。常にドルの為替レートを懸念しているアメリカのメーカーも警戒心をつのらせ始めていた。第二に、政策の変化により為替市場介入を指示できる状況になっていた。日本政府が、アメリカが勧告していきた経済再建に取り組むという公式声明を準備し始めたのである」(「ルービン回顧録」より)

 回顧録ではもうひとつ、驚きという心理的な要因に対する期待が持てたとある。ルービン財務長官の為替市場介入に対する反対の姿勢は知れ渡っており、上院での発言が深読みされたことなども効果的となった。そこでグリーンスパン、サマーズ、財務省の幹部達と協議を行い、協調介入を実施。この協調介入によってドル円が大きく反転こしたことで、結果は奏功したともいえるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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