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10年国債利回りが0.255%と長期金利コントロール上限を突破、これは市場による日銀への挑戦状か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 2022年6月13日、日本の長期金利の指標となる10年国債の新発債(カレント)の利回りが日本相互証券(BB)で0.255%を付けた。つまり、日本銀行のイールドカーブコントロール(YCC)政策の許容変動幅の上限となっている0.25%を超えてきたのである。

 これはおかしいじゃないかと思う人も多いと思う。日銀は連続指し値オペで10年カレントを毎日0.250%で買い入れている。いわゆる業者と呼ばれる証券会社はそれに出せば0.250%で売れるのに、どうしてそれよりも価格の安い(利回りの高い)0.255で売る必要があるのか。

 今回、BBで出合ったのは最低金額の5億円だが、これには大きな意味がある。つまり、0.25%で長期金利を抑えようとしている日銀への挑戦状ともいえるものである。

 日銀は異例ともいえる長期金利を押さえ付けて何をしたいのか。これは債券市場の機能を低下させかねないものとなる。経済や物価などファンダメンタルズ、欧米の長期金利の動向、国の財政規律、さらには国債の需給バランスに応じた国債利回りが形成できない。

 さらに日米の長期金利差の拡大から必要以上の円安も招きかねない。実際に13日にはドル円が24年ぶりに135円台を回復した。

 実はこれによって海外勢などを主体に日本の債券市場に仕掛け売りが入りやすかったといえる。13日には超長期債と呼ばれる20年、30年、40年の利回りが急騰した。つまり価格は大きく下落したのである。

 これには日銀が臨時オペなどでの国債買い入れを行うことを躊躇するであろうとの読みもあったのではなかろうか。それをすれば、日銀は金融緩和強化とみなされ、円安を加速させかねない。

 ただし、日銀は残存期間5年超10年以下の利付国債を14日に買い入れると発表した。10年債のカレント3銘柄は指し値オペで対応できるが、カレント以外の銘柄の利回りも0.25%を上回っていたことで、10年国債の利回りを0.25%以下におさえようとするものである。オファー金額は5000億円。当日ではなく翌日といったところも日銀はかなり慎重にオファーしたといえよう。

 日銀は国債利回りが押さえ込めるとしていたが、現実にはそれは不可能に近い。欧米の長期金利がおとなしくしており、物価も安定していれば、それは可能にみえたかもしれない。しかし、世界的な物価上昇がそれを許さなくなった。欧米の長期金利はファンダメンタルズに沿って上昇した。日本の物価も上昇してきたにもかかわらず、日銀は頑なに正常化を拒否するという異常事態となっていた。

 日銀が指し値オペで10年債カレントを無制限に買い入れようとしてもカレントの発行額には限界がある。つまり買い入れる額は無制限ではない。13日の指し値オペでは1兆5337億円もの10年カレントの応札・落札があった。

 また、今回のように債券先物に売り圧力が掛かっても日銀は先物は買えない。円安も気になることで、超長期債主体に売り崩す動きにも対応できなくなってきた。

 これにより市場と日銀の対立の構図が強まってきたともいえる。これまでの日銀の対応にかなり無理があったことで、市場も攻めやすくなっている。マーケットによる逆襲が始まったか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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