首相は動かぬ日銀に注意を促したのか
日本銀行の植田総裁は7日の夕方に、首相官邸で岸田首相と会談し、為替が経済物価に与える影響などについて議論した。両者の会談は日銀が17年ぶりの利上げを決定した3月19日以来となる。
4日に米国のイエレン財務長官は「介入の有無についてコメントするつもりはない」と述べ、「それはうわさだと思う」と話した。その上で長官は、円相場は「比較的短期間にかなり動いた」と述べ、「こうした介入はまれであるべきで、協議が行われることが期待される」と付け加えた。
この発言を鵜呑みにすると、29日と2日がもし介入であったとすると、事前に米国サイドと協議が行われていなかった可能性がある。首相と日銀総裁の会談の背景に米国政府からの意向が伝えられていた可能性もあるのかもしれない。
ちなみに神田財務官は、イエレン財務長官の発言について「私からコメントするのは不適切なので控える」と述べるにとどめた。
神田財務官は、為替相場は「ファンダメンタルズに従って安定的に推移することが好ましい」と従来の発言を繰り返した。その上で、「マーケットがそのように健全に機能していれば、政府が介在する必要もなく、市場に任せればいいが、投機などによって過度な変動、無秩序な動きがある場合には、マーケットが機能していないわけで、政府が適切な対応を取らなければいけない」と語った(7日付ブルームバーグ)。
7日のニューヨーク外為市場では、この発言を受けて円安が進んだとの見方があった。この日の米長期金利は低下していたにもかかわらず、ドル円は155円近くまで戻してきている。
神田財務官のコメント、さらに首相と日銀総裁の会談、その前のイエレン財務長官の発言などから、今後の介入は困難になりつつあるとの読みが働いた可能性がある。
それ以上に今回の円安の要因が金利差であり、日米の金融政策の方向性の違いが背景にある。
日銀は3月19日にマイナス金利政策とイールドカーブコントロールを解除した。さらに次のステップは利上げであることを示していた。ただし、国債の買入については4月からの国債発行額の減額があるにもかかわらず、6兆円という数字まで出して日銀の国債保有額を維持する姿勢を何故か強く示していた。
4月からの国債発行額の減額に合わせた日銀の国債買入の減額すら行わないのは何故なのか。日銀の頑なな姿勢が再び現れたことも、円安の動きを助長していた可能性がある。
6兆円という数字を取るなり、国債発行額の減額に合わせた買入額の修正を行うなどすれば、日銀は柔軟に対応してくるとの読みも働き、円安にも対応してみせたということにもなったはずである。
植田総裁は会談のあと「為替を直接のコントロール対象とはみていない」、「円安、様々な経済主体の活動に影響を与える」、「基調的な物価上昇率が動けば、金融政策上の対応が必要になる」、「最近の円安の動きを十分に注視している」、「為替レートは経済・物価に大きな影響を与える」などと発言したそうである。
米国サイドの意向が官邸を通じて日銀にも伝えられ、日銀が何らかの対応を迫られるという可能性も出てきたように思われる。