Yahoo!ニュース

金はどうして金貨となったのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 今年に入り、円建ての国内の金の小売価格が過去最高値となった。世界的に金の価格が上昇していたことに加え、円安によって国内の金の小売価格が高騰した。ここにきて少し落ち着いているようだが、日本でも物価の上昇が気になり、あらためて金への関心も高まったのではなかろうか。

 金への投資手段のひとつにコインがある。有名なものにメイプルリーフ金貨がある。1979年からカナダ王室造幣局が発行している地金型金貨である。流通量は世界一とされる。ただし、これは通貨というよりも投資目的に発行されているものである。

 現在、日本では金貨や銀貨は流通していないが、日本も含め世界の歴史では長らく金貨や銀貨が使われていた。それが使われるようになったのはどういう経緯があったのであろうか。

 金や銀、銅などの貴金属は腐ったりすることがなく耐久性があり、他の金属を加えることで硬くなり、分割したり足し合わせたりすることが比較的簡単にできる。少量でも交換価値が高いことで持ち運びにも便利となる。

 支配者の政治的権威を示す装飾品として利用される傾向が強かったため、大昔は貨幣素材に使われることは案外と少なかったようである。

 当初使われた金属貨幣は貴金属の固まりや砂金など計量して用いられたことで、「秤量貨幣」と呼ばれた。

 ただ、秤量貨幣は、その品質を調べたり、重さを量る必要があったりするなど不便な面がある。そのため大きさや重さ、さらに混合物の量がきちんと決められたお金である「鋳造貨幣」が造られるようになった。

 鋳造貨幣は秤量貨幣と異なり、重さによって価値が決められるのではなく、個数によって価値が決められる貨幣である。それゆえに鋳造貨幣は個数貨幣、又は計数貨幣とも呼ばれている。鋳造とは鋳型に融かした金属を流し込んで製造することで、量産がしやすく複雑な形状のものでも作る事が可能となる。こうして現在、使われている貨幣の原型が生まれた。

 世界における最初の鋳造貨幣は、紀元前7世紀ごろに現在のトルコ西部に位置するリディアで発行されたエレクトロン貨とされている。

 この素材となったのはエレクトラムと呼ばれた金銀の天然合金である。自然の中で採掘される金にはいくらかの銀などが混ざっているが、その中でも銀の含有量が20%をこえるものをエレクトラムと呼んでいる。これは普通の金と明確に区別されて「琥珀金」と呼ばれているが、その色彩や輝きといったものが琥珀に似ていたためである。

 ギリシア語の「エレクトロン」は半透明で黄金色のコハクが太陽(エレクトル)を連想させることから命名された。このエレクトロン貨は、金塊に人物や動物の絵を打刻してつくられ、この様式がギリシアやローマ以降の西洋式貨幣の基礎となったのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事