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2%の物価上昇を追い求めていた日銀が、目標達成しそうになると今度は物価の目標先を変更するつもりなのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

4月の東京都区部の消費者物価指数(除く生鮮)は前年同月比1.9%の上昇

 総務省が6日発表した4月の東京都区部の消費者物価指数(CPI)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が101.3となり、前年同月比1.9%の上昇となった。

 プラスは8か月連続、伸び率は消費増税の影響があった2015年3月以来、7年1か月ぶりの大きさとなった。消費増税の影響がないときでは、1992年12月の1.9%の上昇以来となる。

 昨年4月から携帯電話通信料が大幅に引き下げられた影響がはく落し、前年同月比での上昇率は3月の同0.8%から一気に加速した。

 携帯電話通信料の指数への寄与度はマイナス0.29と3月のマイナス1.08から縮小した。この縮小分相当(0.79)が携帯電話通信料が大幅に引き下げられた影響分となる。4月は全国ではこの影響分は1.1%程度との見方となっている。

 エネルギー関連が24.6%と3月の26.1%ほどではなかったが高い上昇幅となっていた。電気代は25.8%、都市ガス代は27.6%、ガソリンは14.3%とそれぞれ上がった。エネルギー品目の上昇分だけで、寄与度は1.13ポイントとなった。

 生鮮食品以外の食料は2.3%上がり、上げ幅は3月の1.6%を上回った。こちらの寄与度は0.5ポイント。エネルギー関連と生鮮食品以外の食料によって1.63ポイント押し上げられた格好となった。

4月の全国消費者物価指数(除く生鮮)は2%の日銀の物価目標達成か

 5月20日に発表される4月の全国消費者物価指数(除く生鮮)は、携帯電話通信料が大幅に引き下げられた影響がはく落し、エネルギー関連と生鮮食品以外の食料品価格の上昇の影響もあり、日銀が目標としている2%近辺となりそうである。

 日銀も経済・物価情勢の展望(2022年4月)において、2022年度の消費者物価指数(除く生鮮)の予測(中央値)を前年同月比プラス1.9%としている。何故か切りの良い2%にしないで1.9%にするあたり作為すら感じるものとなっていた。

 ご存じのように日銀の物価目標は消費者物価指数(除く生鮮)であり、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数ではない。

 そもそも物価目標を作った際の目標は、生鮮食品を除く総合指数でもなく、「総合指数」そのものであった。4月の東京都区部の消費者物価指数の総合は前年同月比プラス2.5%となっていた。

 2016年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の決定時に、日銀は物価目標を総合から、生鮮食品を除く総合指数に置き換えていた。

日銀はいつの間に物価目標先をすり替えたのか

 その後、日銀が物価目標を生鮮食品を除く総合指数から、たとえば、生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数に置き換えたという話は伝わってこない。

 黒田総裁は4月28日の決定会合後の会見で次のように発言していた。

「(物価の)先行きについては、生鮮食品を除いた消費者物価の前年比は、携帯電話通信料下落の影響が剥落する2022年度には、エネルギー価格の大幅な上昇の影響により、いったん2%程度まで上昇率を高めますが、その後は、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅を縮小していくと予想しています。この間、変動の大きいエネルギーも除いた消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていくもとで、食料品を中心とした原材料コスト上昇の価格転嫁の動きもあって、プラス幅を緩やかに拡大していくとみています。」(日銀サイトの4月28日の会見要旨より引用)

 いつの間にか「変動の大きいエネルギーも除いた消費者物価の前年比」が物価目標のごとくなってしまっているが、いつ変更を行ったのであろうか。もちろん総裁の言いたいこともわかる。マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まった上での物価上昇が望ましいことはたしかである。

 しかし、いったん2%程度まで上昇したものがそのまま高止まりする可能性は本当にないのか。米国でもFRBは物価上昇は一時的と言っていたがその発言を取り消している。

 さらにマクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まった上での物価上昇のために、長期金利を抑えること(長期金利コントロール)で、それが達成できるというのであろうか。

長期金利を抑えることによる功罪

 我々が本来受け取れるはずの金利をなくすことで、マクロ的な需給ギャップ改善とか賃金上昇率が高まる保証はあるのか。助かるのは債務者つまり、住宅ローンを組んでいる人達もそうかもしれないが、最大の恩恵を受けるのは巨額債務を抱える政府となる。これはむしろ政府の財政規律を緩ませかねないものでもある。

 2%の物価目標が達成できるのであれば、正常化に向けて舵を切り、本来の金利(短期金利と長期金利)の機能を復活させるべきである。どうやらそれはどうしてもやりたくはないようだ。いや、できないと考えているのかもしれない。

 すでに欧米では正常化に向きを変えてきていることで、日本の金融政策の異質性を浮き彫りにさせかねない。これは海外投資家も当然理解しており、弱いところには付け込むチャンスとみている可能性も当然あろう。追い込まれる前に修正をしなければ、それによる反動リスクは膨らむばかりとなりかねないのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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