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日銀はトルコを真似るべきではない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀はここにきての日本国債の利回り上昇に対して、抑え込む姿勢を明確にした。30日には指し値オペとともに、通常の国債の買い入れを増額し、予定になかった超長期ゾーンの買入を午前と午後に2回入れてきた。

 その結果、30日に市場から買い入れた国債の規模は2.3兆円あまりとなり、日銀が量的・質的緩和を決定した2013年4月以来、ほぼ9年ぶりの規模となった。

 市場から国債を大量に買い入れることは量的緩和とも呼ばれるように強力な金融緩和手段である。

 28日にドル円は125円台を一時付けた。これには日本と米国の金融政策の方向性の違いが背景にあった。

 米国の中央銀行にあたるFRBは3月にゼロ金利を解除したあと、急ピッチで利上げを進め、保有する資産規模を縮小するとの観測を強めている。これを受け米長期金利は一時2.5%台に上昇した。

 米長期金利の上昇は日本国債の利回り上昇を促し、25日に日本の10年債利回りは0.25%という日銀が想定した長期金利コントロールの上限に到達。これに対して日銀は指し値オペとともに初の10年国債への連続指値オペの実施を明らかにした。

 これを受けてドル円は一時125円台を付け、いわゆる黒田ラインと呼ばれた水準に上昇した。

 その後のドル円は戻り売りに押され、121円台まで下落した。仕掛け的な動きによる円安進行の面があり、「噂で買って事実で売る」といった動きも入っていたとみられる。

 30日に日銀は指し値オペとともに通常のオペの金額を増やし、予定になかった超長期ゾーンの国債買い入れも実施し、その結果が2.3兆円あまりの量的緩和となったのである。

 自国の通貨安に対して、金融緩和という手段を持ちいるとなれば、興味深い事例がある。

 トルコのエルドアン大統領は過去2年半に3人の中央銀行総裁を突然解任した。二桁の高インフレにより、トルコ中銀は利上げを行ったのだが、エルドアン大統領は利上げでなく利下げを迫ったのである。

 利下げとそれによる通貨安によって景気は浮上するとの認識をエルドアン大統領は持っているようである。リラ下落によってトルコが工業大国に生まれ変わるとした。それに反するような動きをしたトルコ中銀のトップを自分の意に従うものに変えようとしたといえる。  

 昨年9月にトルコ中銀はハト派的なスタンスに転じた。その結果、高インフレは止まらず、通貨リラは大きく下落した。しかし、それによって輸出が伸びて景気が回復したわけではない。むしろ、リラ急落はトルコの中流層に大打撃を与え、投資家をいらだたせることになった。

 日本はトルコのように二桁の高インフレなどにはなっておらず、むしろ消費者物価指数は前年比0.6%程度なのに比較はおかしいだろうとの見方もあるかもしれない。

 しかし、日本の国内企業物価指数は前年比で二桁に近づいており、消費者物価指数は4月にも前年比2%を超えてくると予想されている。消費者物価指数の2%台は2008年9月以来となる。この際は原油価格の上昇により7月から9月の3か月間のみの2%台ではあった。

 日銀は今回の物価上昇も一時的との認識のようだが、FRBなどは一時的との表現は削除している。つまり日本でも物価上昇圧力が今後強まる恐れがある。

 そのような最中に金融緩和強化のような手段に出たとなれば、エルドアン大統領と同様の行動に出たとの見方もできなくはない。

 トルコ中央銀行は昨年12月1日、通貨防衛のための為替介入を行った。同中銀が直接介入を公にするのは珍しいが、この背景には大統領の意向があった可能性もある。しかし、介入による効果も一時的なものとなった。

 ひとまず円安は一服したものの、日銀のスタンスに変化がなければ、今後あらためて円安が進行し、ドル円が130円を目指すことも十分ありうる。そういった流れにブレーキを掛けるためにも、日銀は物価の上昇や欧米の国債利回り上昇を背景とした債券市場参加者の金利観を無視した政策は取るべきではないと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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