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日銀は長期金利を0.25%で止めるのか、それとも止めないのか。結果は止める模様だが

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 「日銀の金融政策修正については、マイナス金利政策とYCCの両方の解除を予想しており、本来の金融政策であるゼロ金利政策に戻すことを想定している。選択肢として長期金利ターゲットの解除がないのはどうしてなのか」

 これは先月末のあるアンケート調査においてコメントに私が書いたものである。今後の日銀の政策調整の可能性とともに選択肢がいくつかあった。長期金利コントロールについては、変動幅を拡大、対象年限短期化、長期金利ターゲット引き上げの有無の問いであったが、長期金利コントロールの解除そのものが選択肢に入っていなかったのである。

 これは私がやや日銀の正常化に向けてバイアスが掛かりすぎている面もあったかと思うが、市場参加者の多くはそこまでの想定はしていないということであろう。しかし、ここにきて日銀の金融政策の正常化の可能性を指摘する声も出てきている。ただしそれは現在、あくまで極めて少数意見である。

 それでは日銀は10年債利回りの0.25%で無制限買入オペを実施して上昇を止めるのか。それともオーストラリア中銀のように目標値で止めることなく、次回の会合で正式に解除を表明し金融政策の正常化に修正するといったこともありうるのか。

 ちなみに日銀の金融政策の正常化とは、マイナス金利政策、長期金利コントロール、そしてオーバーショート・コミットメントの解除によるゼロ金利政策へ回帰となり、それを同時に行う必要があるとみている。

 現在の日銀のスタンスからは、日銀は10年債利回りの0.25%で無制限買入オペを実施し、上昇を止めることが想定される。しかし、止めない可能性も少なからず存在していることにも注意が必要となる。

 長期金利を0.25%で無制限買入によって止めてしまった場合、それは量的緩和策に映るとともに、異次元緩和を継続することを強調する格好となる。そうなれば3月の利上げが確定的なFRBと、年内の利上げ、つまりマイナス金利政策の解除の可能性を強めたECB、さらには追加利上げを決定したイングランド銀行との方向性が正反対となる。

 これによって欧米と日本の金利差が意識され、円安が加速する可能性が出てくる。2012年末のアベノミクス登場時のように円安が諸手を挙げて歓迎される状況には今はない。安倍政権と岸田政権のスタンスの違いも存在する。さらに世界的な物価の上昇など外部環境も様変わりしている。

 それでも黒田日銀総裁の任期中に政策修正はないとの見方も強いこともたしかである。私も政策修正が議論されるとしても、消費者物価の前年比2%が実際に見えてくる今年の夏あたりからかとみていた。しかし、先を読む市場は待ったなしで動いており、10年債利回りの0.25%が見えてきた。

 果たして日銀は長期金利を0.25%で止めるのか、それとも止めないという選択肢もありうるのか、それがまもなく試される、と10日に書いたが、この日さっそくこれが試された。米消費者物価指数の発表を控え、10日の債券市場では超長期債を中心に大きく売られた。債券先物は引け後のナイトセッションで150円割れとなり149円94銭まで下落し、10年債利回りが0.230%まで上昇した。

 このタイミングで日銀は14日での10年債利回りの0.25%での無制限買入の指し値オペをオファーしたのである。長期金利を0.25%で止める姿勢を示した。これを受けて債券先物は一時150円29銭まで買い戻された。

 しかし、1月の米消費者物価指数は前年同月比7.5%上昇と伸びが拡大し、予想も上回ったことに加え、3月のFOMCでの0.5%の利上げ観測が強まったことで、米10年債利回りは2%台に上昇した。欧州の国債利回りも軒並み上昇した。さすがに債券先物にも売り圧力が再度掛かり、ナイトセッションの引けは149円96銭と150円割れとなった。

 これまでの指し値オペとは異なり、ここで債券市場の下落を抑えきれるのかは疑問が残る。ちなみに日銀が無制限に買えるのは現状、10年国債の直近3銘柄にしかすぎない。当然ながら債券先物を買うことはできない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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