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日本国債の利回り上昇の背景に日銀の正常化観測も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 1月27日に2年国債はマイナス0.055%と2016年1月以来、5年国債はマイナス0.010%と2016年2月以来の水準に上昇した。

 また、翌28日には10年債利回りは後場に入り0.165%に上昇し、2021年2月以来の水準に上昇した。31日には0.185%に上昇し2016年1月29日のマイナス金利導入以来の水準に上昇した。

 そして、20年国債の利回りは0.570%、30年国債の利回りは0.770%、40年国債の利回りは0.820%まで上昇した。

 2021年2月26日に10年国債利回りは0.175%、20年国債利回りは0.575%、30年国債利回りは0.765%、40年債利回りは0.815%まで上昇していたが、ここを抜いてきた。

 昨年2月に日本国債の利回りが上昇した背景には米10年債利回りが1.6%台に上昇したことがあった。さらに日銀が3月18、19日の金融政策決定会合における点検で、長期金利のレンジが拡大されるのではとの観測などが背景にあった。

 今回は米10年債利回りが一時1.9%台に上昇し、その背景には3月以降のFRBの利上げと、その後のFRBによる保有資産の縮小観測がある。

 注意すべきは中期ゾーンの利回り上昇となる。31日にドイツの10年国債の利回りがマイナスから脱したが、日本では5年国債の利回りがゼロ%に接近しているのである。

 28日の債券市場の動きをみると債券先物は2銭高としっかりで引けていたにもかかわらず、現物債が売られていた点にも注意したい。これはつまり先物主導の海外投資家の仕掛け的な動きというより、国内のいわゆる業者(証券会社など)によるポジション調整の動きのようにもみえた。

 世界的な物価の上昇とその背景にある経済の正常化を睨んで、欧米の中央銀行は緩和方向から正常化に向けて方向転換を行っている。

 日銀は動けない、動かないとの見方も強いようだが、そのなかにあっての日銀の金融政策の影響を受けやすい中期ゾーンの利回り上昇はどういうわけなのか。

 個人的には日銀は年内に動く可能性を想定している。消費者物価指数は1月にいったん前年比の上昇幅は縮小するとみられるが、2月以降、特に携帯電話料金の引き下げによる下押し要因が剥落する4月以降は2%に接近、もしくはそれを上回ってくる可能性もある。

 これは原油価格の上昇などエネルギー価格の上昇が大きな要因ながら、価格転嫁の動きが強まり、それが物価全般に波及してくることも考えられる。物価上昇を背景に賃金の上昇に働きかけることも予想される。

 消費者物価が2%に届いたからといって簡単に日銀が金融政策の修正は行ってこないとの見方が大勢のようだが、ここは日銀の金融政策の正常化に向けて舵を取るひとつのチャンスともなる。金融引き締めというよりも、通常の金融政策に戻るというのであれば市場への影響もそれほど大きくなることは考えづらい。一時的なショックはあろうが。

 日銀の金融政策の正常化とは、マイナス金利政策、長短金利コントロール、そしてオーバーショート・コミットメントの解除によるゼロ金利政策へ回帰となる。

 現実に日銀の買い入れている量は減少しており、マイナス金利の適用も一部に限られる。長期金利には本来の役割に戻ってもらい、それによって債券市場の機能回復とともに金融機関の収益回復が期待できる。

 中期ゾーンを含めた日本国債の利回り上昇は、そういった可能性を少しでも意識したものではないかと考えられる。

 むろん、長期金利のコントロールの対象を10年債から5年債にするとか、長期金利目標のワイドニングなども想定はされる。しかし、そんなまどろっこしいことなどせず、本来の、通常の金融政策の姿に戻ることこそが必要であり、それが徐々に可能になりつつあるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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