Yahoo!ニュース

トルコの通貨リラが急落の背景、利下げや通貨安が経済に悪化を及ぼす事例に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トルコ共和国はアジアとヨーロッパにまたがる国で、その大部分はアジアの西端、アナトリア半島にある。世界で最も親日的な国の一つとしても知られる。首都はアンカラ。最大の都市はイスタンブールである。

 そのトルコの通貨であるリラがドルや円に対して最安値を更新した。トルコリラに対しては日本の投資家による買いも多く入っていた。その理由のひとつに「高金利通貨の代表格」という位置づけがあった。

 ところがこの高金利が気に食わない人物がいた。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領である。

 エルドアン大統領は過去2年半に3人の中央銀行総裁を突然解任した。二桁の高インフレにより、トルコ中銀は利上げを行ったのだが、エルドアン大統領は利上げでなく利下げを迫ったのである。

 利下げとそれによる通貨安によって景気は浮上するとの認識をエルドアン大統領は持っているようである。リラ下落によってトルコが工業大国に生まれ変わるとした。それに反するような動きをしたトルコ中銀のトップを自分の意に従うものに変えようとしたといえる。

 9月にトルコ中銀はハト派的なスタンスに転じた。その結果、高インフレは止まらず、通貨リラは大きく下落した。しかし、それによって輸出が伸びて景気が回復したわけではない。むしろ、リラ急落はトルコの中流層に大打撃を与え、投資家をいらだたせることになった。

 このため、トルコ中央銀行は12月1日、通貨防衛のための為替介入を行った。同中銀が直接介入を公にするのは珍しいが、この背景には大統領の意向があった可能性もある。

 しかし、介入による効果も一時的なものとなりそうである。トルコ中銀にはいっそうの介入に十分な外貨準備の余力が残っていないとの観測もある。

 トルコのエルドアン大統領は2日未明、エルバン財務相の辞任を承認し、後任にネバティ副財務相を指名した。

 中央銀行のトップを変えたり、財務相を変えても状況が好転することは考えづらい。利下げや通貨安が経済にとっては最高の状況ではないことを大統領自身が認識すべきことながら、その考えを改めさせることは無理であろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事