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世界的なエネルギー需給逼迫は、いずれ日本にも影響し、家計にも影響を与えかねない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 欧州でエネルギー危機が起きている。欧州連合(EU)27か国のエネルギー価格が上昇が加速してきている。その要因のひとつとして、急速な景気の回復に伴いエネルギー需要が急増したことが挙げられる。

 欧州は石油や石炭などを用いる従来型の化石燃料による発電に替えて、再生可能エネルギーによる発電を推進してきた。水力や風力、太陽光といった再生可能エネルギーの発電量は天候に左右されるが、今年の欧州は天候に恵まれず、それが再生可能エネルギーによる発電の障害になっていた。

 代替として石炭や石油といった化石燃料を用いる従来型の火力発電については、欧州委員会が今年7月に野心的な温室効果ガスの削減目標を掲げて間もないことから、簡単に乗り換えられない。ドイツなどはメルケル政権の下で脱原発を進めてきたことから、原発も選択肢に入りづらい。

 残された選択肢として温室効果ガスの排出が少ない天然ガスがあり、中国も欧米に倣い気候変動対策を強化する中で、天然ガスの調達を増やすなどしていることで天然ガスの価格が急騰した。

 欧州では気候変動対策が進んだあまり、コロナ禍からの経済の回復と天候不純などが重なって、エネルギー危機を招くような状況となっている。

 この欧州のエネルギー需給逼迫は北欧にも現れつつある。北欧の貯水量不足が厳しいエネルギー事情に拍車をかけている。貯水量減少がこの地域で最も重要な発電の資源を抑制している。

 中国では製造業の回復に伴え、電力消費に対する石炭の供給不足で、各地で停電が続いているため、中国はエネルギー使用に制限を課している。

 インドでも経済活動の再開、産業界向けの電力需要が急増し、石炭火力発電所の半数以上で燃料の在庫がなくなりつつある。

 日本の場合、天然ガスの輸入などに際して長期契約が占める割合が圧倒的であることから、足元の需給要因の影響を受けにくいとされる。しかし、今後は次第に影響が出てくることが予想される。すでにガソリン価格の上昇などから家計にも影響を与えつつある。これから寒くなり灯油の需要も増える季節を迎える。

 世界的なエネルギー需給の逼迫により、天然ガスや石炭だけでなく、原油価格も上昇してきた。いまのところ日本には直接的な影響は出ていないようだが、世界的なエネルギー需給逼迫が続くとなれば他人事ではなくなってこよう。

 欧米などでの物価の上昇は一時的とされてきたが、高止まりが続いている。これにはエネルギー需給の逼迫も影響していよう。アフターコロナも意識されるなかで、世界的な経済の正常化がさらに進むとエネルギー価格の上昇も加わってインフレを招きかねない。日本はインフレなど関係がないと果たして言い切れるであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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