原油価格の上昇や欧米の長期金利の上昇が意味するもの
原油先物価格と欧米の長期金利がここにきて上昇してきている。この背景にあるのは何であろうか。
原油先物価格の上昇の背景として、需給逼迫という言葉が良く使われる。8月下旬に米南部に上陸したハリケーン「アイダ」の影響で停止した原油生産の回復が遅れ、需給が逼迫した状態が続くとの見方から買われたとの見方である。
もしそれが主因であれば、メキシコ湾岸の石油施設が回復すれば、需給逼迫は改善するはずである。つまり一時的な特殊要因のはずであるが、24日のロンドン市場で北海ブレント原油先物が一時、2018年10月以来の高値を付けるなど水準がかなり高いところまできていた。
これには一時的な要因だけでなく、コロナ禍後の経済の正常化を睨んだ動きも伴っていたのではなかろうか。
経済の正常化を睨んで、欧米の中央銀行も動きをみせつつある。
今月9日のECB理事会では、予想通り債券買い入れを少し縮小する方針を示した。ラガルドECB総裁が記者会見で、今回の決定はテーパリングではないと発言したものの、これはテーパリング以外の何ものでもない。
22日のFOMC後のパウエル議長の会見では、11月にも資産購入縮小を開始し、2022年半ばまでにそのプロセスを完了させる可能性を示唆した。2022年中の利上げも意識されはじめている。
英国のイングランド銀行は23日、年末時点のインフレ率が4%を超え、目標の2%を大きく上回る見通しで、金利上昇の根拠が「強まったもよう」という見解を示した。
ノルウェー中央銀行は23日、政策金利をこれまでのゼロから0.25%に引き上げると発表した。ゼロ金利政策の解除である。
これらの動きを背景に、欧米の長期金利は上昇基調を強めた。原油先物価格も上昇しつつあり、これもあって物価の高止まりなども意識された金利の動きであった可能性もある。
物価が高止まりとなれば、中央銀行も金融政策の正常化を急ぐ理由ともなる。それを見越して長期金利は動く。
日本については物価そのものがゼロ近辺となっており、2%の物価目標に縛られている日銀は現時点では正常化には動きづらい。しかし、新興国に加え、欧米が金融政策の正常化を急ぐとなれば、日本だけが取り残されるリスクがある。
正常化によって本来、長期金利のもつ機能が発揮されることも予想され、日本国債についてはその機能が失われたままという事態が続くことが予想される。これはある意味、日本にとって、政府債務という大きなリスクを見い出しにくくさせるものとなろう。