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10年国債入札日に業者間取引で10年国債の新発債の売買がゼロという事態が発生

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 8月3日に10年国債の入札が実施された。この10年国債(利率0.1%、363回)の入札は、最低落札価格100円86銭、平均落札価格100円89銭となった。最低落札価格は予想をやや下回り、テールは3銭と前回の1銭から流れ、応札倍率は3.33倍と前回の3.54倍を下回り、やや低調な結果となった。

 前日2日の米10年債利回りが一時1.15%に低下するなどしていたことで、この日の債券先物は買いが先行していた。10年国債の入札結果を受けてもそれほど先物には売りは入らず、債券先物の引けは13銭高の152円44銭としっかりしていた。

 これを見る限り、10年国債入札は多少低調だったものの、相場はしっかりで、特に問題がなかったように思われる。しかし実は異常とも思える事態が起きていた。

 債券市場参加者以外には債券市場は何をみれば良いのかもわかりづらいと思う。値動きをみるのには大阪取引所に上昇している長期国債先物、通称、債券先物の値動きを見れば良い。

 しかし、あくまで先物はデリバティブ、派生商品であり、現商品である現物債の動きも当然確認する必要がある。ただし、この現物債は店頭取引となっており、証券会社などが生保や銀行などの機関投資家と直接売買をしているため、その具体的な状況は掴めない。

 そこで登場するのが日本相互証券などのブローカーである。日本相互証券とは債券流通市場の整備を図るため、国内大手証券を中心とした約90社の共同出資により誕生し、国債を中心とする債券取引に特化した証券会社である。

 つまり業者と呼ばれる証券会社などは日本相互証券を通じて自己のポジション調整を行っているのである。またはここを通じて自己売買なども行っている。ちなみに日本相互証券はブローカーズ・ブローカー(Broker's Broker)とも呼ばれ、略称はBBとなっている。

 このBBの端末があれば、現物債の動きが一目瞭然となる。ほかにもブローカーは存在しているが日本国内では依然としてBBの商い量が突出している。

 このBBの端末でまず確認する必要があるのが、カレントと呼ばれる直近発行された銘柄である。つまり、2年、5年、10年、20年、30年、40年の国債のカレントの動きを確認する必要がある。ちなみにBBでの10年債カレントの利回りが現状、日本の長期金利と呼ばれるものとなっている。

 私がディーラー現役のころは活発な商いがあったが、日銀のマイナス金利政策やイールドカーブコントロールなどもあって国債利回りは低位に抑えられ、現物債の商いも低迷しつつある。

 10年国債のカレントでもBBで商いがない日があったぐらいである。それでも8月3日はその10年国債の入札があったにもかかわらず、BBでの10年債カレントの商いがなかったという、たぶん過去に例のないような事態が発生していたのである。

 この日の10年債カレントの気配値は0.005%となっていた。ちなみに気配値はイールドカーブを基に求められるため、売買がなくても算出は可能である。

 この日の10年債カレントのBBでの商いがなかったのは何故か。たまたまそうなってしまったともいえようが、業者としても10年債利回りのゼロ%は避けたいという意向も見え隠れする。裏を返せば、日銀のマイナス金利政策に対する暗黙の抵抗のようにも思えるのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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