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米国の物価と原油価格と長期金利の関係

久保田博幸金融アナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 米労働省が13日に発表した6月の米消費者物価指数の上昇率は、前年同月比5.4%となった。5月の同5.0%を上回り、2008年8月以来、約13年ぶりの高水準となった。

 その2008年8月の米消費者物価指数の上昇率は前年同月比5.4%となっていたが、今回とは状況は異なっていた。

 2008年8月といえば、日本の消費者物価指数(除く生鮮)の前年同月比も2.4%と2%を上回っていた。しかし、これは一時的であり、この年の12月には前年同月比0.2%増、2009年3月にはマイナスに転じていた。

 いったい2008年8月に何が起きていたかといえば、原油価格の急騰である。中国などの新興国のめざましい経済成長を受けての原油需要の拡大により原油価格は上昇した。ここに投機的な動きも加わり、WTI先物は7月11日には史上最高値147.27ドルを記録した。この原油価格の急騰による影響を物価指数が大きく受けていた。

 ちなみに2008年8月末の米10年債利回りは3.9%近辺、日本の10年債利回りは1.4%近辺となっていた。

 昨日の米10年債利回りは1.34%、日本の10年債利回りは0.015%となっていた。WTI先物は73ドル台。

 消費者物価指数と原油先物価格、長期金利の動きにはある程度、トレンドとしては連動性はあるとしても、水準そのものはこれをみても異なっている。

 米長期金利は2018年9月あたりに3%台を回復していたが、そこから低下基調となった。FRBは2018年末にかけて利上げを行っていたが、2019年1月に利上げ停止を示唆。これは中国経済を中心に世界景気の下振れを懸念してのものであった。

 2020年には新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による経済への影響も意識され、米長期金利は1%割れとなった。しかし、8月あたりをボトムに米長期金利は上昇基調となり、今年3月末に1.7%台を回復していた。

 原油先物価格は昨年4月に一時マイナスとなるなどの波乱が起きたが、ここにきて70ドル台を回復している。

 米長期金利は物価動向などより、FRBの金融政策に影響を受けやすいことは確かであり、その意味ではFRBによるテーパリングが正式に決まるまでは、物価だけでは上昇しにくいともいえるのかもしれない。しかも今回はコロナ禍という特殊要因も加わり、過去との比較も難しいことで、あまり先走って動きづらい面もあるのかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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