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米国債が急速に買われたのは短期的なショートカバーか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 9日の米債は9日ぶりの反落となり米10年債利回りは1.36%と前日の1.29%から上昇した。ここにきての米債はかなりの荒れ模様となっている。8日に米10年債利回りは1.25%まで低下していた。1日で0.1%も動くというのは最近では珍しい。

 米10年債利回りのチャートをあらためて見返してみると、米10年債利回りは今年3月末に1.7%台に上昇したが、ここでいったんピークアウトした。昨年8月あたりをボトムとした米10年債利回りの上昇相場は調整局面を迎えていた。

 何故、このタイミングでピークアウトしたのか、外部環境からみると疑問は残る。なぜなら、4月や5月の米国の消費者物価指数は前年の反動もあって急上昇し、FRBはテーパリングの可能性を示し始めていたためである。財政拡大による米国債の発行増もあった。

 これらが米10年債利回りの上昇圧力に繋がらなかった。予想された1.9%とか2.0%という節目すら到達していなかった。

 これには昨年8月あたりをボトムとした米10年債利回りの上昇によって、買い方のポジション調整は進み、先物やオプションなどを使ったショートポジションなども膨らんでいたためとの見方もできるのではなかろうか。

 米国債の利回りは思ったように上昇せず、むしろじりじりと低下してきたことで、そのショートカバーの動きが強まり、9日まで9営業日続伸となって、特に9日に1.25%まで低下してしまったといえるのではなかろうか。

 国債そのものの需給バランスからみても上値は重いはずだが、比較的短期的なデリバティブのポジションがショートに偏り、その結果の相場展開との見方もできる。

 そうであれば、そろそろショートスクイーズといった動きも一巡してくるのではなかろうか。ここから米国景気が悪化を示すなどすれば、また違った動きとなることも予想されるが、9日に米国の主要株価指数は過去最高値を更新しているように、景気回復への期待感の方が強いと思われる。

 ファンダメンタルなどからやや乖離したかのようにみえた米10年債利回りの動きであった。この米長期金利の動きそのものが何かしらの米国のファンダメンタルなどの変化を見越した動きかとの見方もあった。

 しかし、これがもし偏った短期ポジションによるものであったとすれば、このポジションの解消により、今後はあらためて景気回復や国債の発行増、そしてFRBのテーパリングを意識した動きとなってくるのではと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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