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FRBの目標(目安)とする物価指数は3%超えに

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 米商務省が28日に発表した4月の個人所得・消費統計では、食品・エネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)価格指数が前年同月比3.1%上昇し、1992年7月以来の大幅な伸びを記録した。市場予想は2.9%上昇だった。総合でも前年比3.6%上昇した。(29日付ロイター)。

 米国の個人所得・消費統計とは、米国の個人の所得と消費について調査した指標である。このうち個人所得とは、社会保険料を控除し実際に個人が受け取った所得のこと。個人所得は消費動向を決定付ける大きな要因ともみられている。

 名目個人消費支出(名目PCE)を実質個人消費支出(実質PCE)で割ったものがPCE価格指数、もしくはPCEデフレーターと呼ばれるものである。

 市場の注目がFRBの金融政策の動向などに注目が集まっている際などは、個人消費や支出そのものよりもPCEデフレーターが注目される。

 PCEデフレーターは、名目PCEを実質化して実質PCEを計算して求める物価指数のひとつであり、PCEデフレーター変化率がプラスであれば物価上昇、マイナスであれば物価下落と捉える。

 特に価格変動が激しいエネルギーと食品を除いたものを「コアPCEデフレーター」と呼び、FRBが物価指標の中で最も重要視している指標のひとつとなっている。その理由としては消費者物価指数に比べて、バイアスが生じにくいためとされる。

 1月25日のFOMCの終了後に発表された「長期目標と政策戦略」という声明文において、FRBは物価に対して特定の長期的な目標(ゴール)を置くこととし、それをPCEの物価指数(PCEデフレーター)の2%とした。

 FRBは物価の目標(ゴール)を、PCEデフレーター(前年比)の2%に置いた。この際に、FRBがコア指数ではなく総合指数を使ったのは、足下物価動向を見るにはコア指数が良いが、長期的に見ると総合指数が適切と判断したものと思われる。

 市場ではコアPCEを注目しているが、総合でもコアでも今年4月の数値は3%を超えてきた。

 4月の米消費者物価指数も前年同月比の上昇率が4.2%と2008年9月以来の伸びを記録していたが、これは前年4月がコロナ禍で大きく落ち込んだことでその反動ともいえる。このため、FRBはこの物価上昇は一時的なものとみている。

 しかし、これに対してイングランド銀行のチーフエコノミストが数十年前にみられた賃金上昇と物価高の悪循環に陥る可能性があると警告するなど、今後インフレが加速するとの見方も出ている。これは英国についてのものではあるが、英国も同様に昨年大きく落ち込んだ反動が出ていた。

 英統計局が5月19日に発表した4月の英国の消費者物価指数(CPI)は前年同月に比べ1.5%の上昇となっていた。上昇率は前月の0.7%から急拡大し、2020年3月と並ぶ1年1カ月ぶりの大きさになっていた。

 この物価上昇は一時的なのか。昨年4月は原油先物がマイナスとなるなど異常な状況となっていたことで、それと比べれば大きく上昇してしかるべきである。しかし、経済の正常化が今後進むとなれば、ある程度の期間、物価が高止まりしてくる可能性もないとはいえないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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