ビットコイン・バブルは崩壊したのか、チューリップ・バブルとの比較
ビットコインは再び下落基調を強め、日本時間の23日の日曜深夜も売りが強まり、一時は31100ドル台に下落していた。何かしら売りを誘うニュース等も見あたらず、自ら値を崩してきた格好となる。
まだ半値ということもあり、これでビットコインが崩壊したのかどうかはわからない。しかし、今後の動き次第ながらも、その可能性も強まりつつある。
ちなみにビットコインが4月につけた史上最高値は64801ドルであり、その半値は32401ドルとなるので半値を下回っている。株式市場の格言のひとつに「半値押しは全値押し」というものがある。
この全値押しとなった事例に17世紀のオランダで起きたチューリップ・バブルがあった。2017年9月には、当時のコンスタンシオECB副総裁(ポルトガル出身)は、17世紀に発生したチューリップ・バブルを引き合いに出し、「ビットコインはチューリップのようなものだと言える」と語っていた。チューリップ・バブルについては、何度か紹介したことがあったが、今回のビットコイン・バブルとたいへん似通ったところもあるため、あらためてご紹介したい。
ヨーロッパで最も経済が発達した国となったオランダは、所得水準がヨーロッパで最高となり、消費や投資が活発化して行く。オランダのその地形や気候により花の栽培に適しており、特に好まれたのがチューリップ栽培であった。オスマン・トルコからチューリップが持ち込まれた当初は、貴族や商人など一部の収集家だけで取引されていたが、1634年あたりから一般個人も値上がり益を狙って、チューリップ市場に参入するようになったのである。
「1990年台あたりからのハイテク相場は2000年のITバブルを経て、あらたな段階に移行した。そこに生まれたのがビットコインと呼ばれるネット上の仮想通貨であった。それは一部の収集家だけで取引されていたが、一般個人も値上がり益を狙って参入するようになった。さらに桁違いの資産家まで参入するに至った」
珍しい品種が高値で取引されるようになり、1636年から1637年にかけて投機熱は最高潮に達した。居酒屋などで行われた先物取引などが主体となり、次第に実態のない取引が行われるようになる。珍しい球根は家一件分といったように、すでに価格は現実からかけ離れたものとなり、貴重品種以外の品種も高値で取引されるようになった。
「ビットコイン以外にも多くの仮想通貨が生まれ、それぞれ高値で取引されるようになった。先物取引も始まり、大きなレバレッジを効かせた取引も行われるようになった。すでに価格は現実からかけ離れたものとなり、2021年4月に6万ドルを突破した」
1637年2月にチューリップ市場は突然暴落した。暴落の理由らしい理由はなかったものの、春になると受け渡しの期日が来ることで、その前に売ろうとしたところ買いが入らず、売りが売りを呼ぶ展開となったのではないかといわれる。先物の決済が行われず、債務不履行が次々に起こる。混乱が収まったのはやっと政府が乗り出した1638年5月である。
「2021年5月19日にビットコインは突然急落した。一時3000ドルに接近したのである。中国が銀行や決済会社が仮想通貨取引に関連するサービスを提供することを禁止したと報じられたが、あくまでこれもきっかけのひとつに過ぎない。その後、いったん4万ドル台に戻したものの、再び正体不明の売りによって31000ドル台に下落した」
数千人規模で支払いきれない債務者がいたといわれたオランダのチューリップ・バブルであったが(バブルという言葉そのものはのちの南海バブルから)、そのバブル崩壊による実態経済への影響はほとんどなかったといわれている。このためチューリップの熱狂が本当にあったのかどうかすら疑問視する見方もある。しかし、これをきっかけにオランダのチューリップが世界に広く認識され、花卉産業が発達していったことも事実である。
ビットコインは、まだ高値からの半値であり、これでバブルが崩壊と断じるわけにはいかない。しかしその可能性も出てきたことも確かではなかろうか。チューリップ・バブル崩壊による実態経済への影響はほとんどなかったといわれているが、今回のビットコインの価格下落は、金融市場のバブルそのものを認識させ、株式市場には多少なり影響を与えるようになった。今後のビットコインの価格には金融市場関係者も注意してみていく必要があるのではなかろうか。