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国の借金が2020年度末で過去最大の1216兆円に。政府債務の状況を知るためには何をみるべきなのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 財務省は10日、国債などの残高を合計した「国の借金」が2020年度末で過去最大の1216兆4634億円に達したと発表した。前年度末比101兆9234億円増と、1年間の増加額も過去最大。新型コロナウイルス対策で、3度にわたり大型の補正予算を編成したことが影響した(11日付時事通信)。

 この記事の「国の借金」とは財務省が発表した「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和3年3月末現在)」のことを示す。

 この記事では、国の借金は、国債、借入金、政府短期証券の合計。20年11月1日時点の日本人の人口推計値(1億2320万人)で単純計算すると、国民1人当たりの借金は約987万円となるとしている。

 厳密に言えば、国の借金はすべて国民が背負うわけではない。「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」の集計のなかで国民が背負う部分とは、税で賄う必要がある債務となる。それは「普通国債」に該当する。

 政府の債務全体についても、見方によって違いがあるため、財務省は政府の債務残高としていくつかの集計を出している。

 これは大きく4つに分けられ、「日本の公債残高」、「国と地方の公債等残高」、「国と地方の長期債務残高」、「国債及び借入金残高」がある。

 「日本の公債残高」とは「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」の集計の中で内国債のうちの「普通国債」がそれにあたる。ちなみに現在、外貨建ての日本国債は発行されておらず、また残高もないためすべて内国債となっている。

 この「普通国債」とは建設公債と特例公債(赤字国債)の残高である。つまり財投債は含まれない。借換債は元々、建設公債と特例公債の借換であるため、借換債という区分はない。集計上、交付国債などは「借入金、交付国債等」として借入金等に含まれる。財投債についても、償還が主として税財源により賄われる債務ではなく、政府短期証券も同様であるため、それぞれ「普通国債」とは区分されている。

 「普通国債」に借入金として「一般会計借入金」と「交付税特会借入金」を加え、さらに地方債残高を加えたものが、「国と地方の公債等残高」である。

 これは、一般的な政策経費や税収等に連動する国・地方の債務を集計したものであり、財政運営戦略の残高目標として用いられている指標と言える。

 そして「国と地方の長期債務残高」とは、利払・償還財源が主として税財源により賄われる長期債務を国・地方の双方について集計したものである。つまり、国の債務のうち、国負担分の長期債務である普通国債、借入金、交付国債等に、地方負担分の長期債務を合計したものである。

 国と地方の債務をはっきりさせるため、交付税特会借入金を地方債務に組み入れ、国の借入金とは区別し集計している。ここに「普通国債」と「借入金等」を加えたものが「国と地方の長期債務残高」となる。

 しかし、国の資金調達活動の全体像を見るためとして、別の集計が存在する。財政法28条に、国会に提出する予算には、参考のために左の書類を添附しなければならないとあり、この中に「国債及び借入金の状況に関する前前年度末における実績並びに前年度末及び当該年度末における現在高の見込及びその償還年次表に関する調書」がある。

 この財政法第28条に基づき、国債及び借入金の状況に関する残高を算出したものが、「国債及び借入金残高」である。これはIMFの公表基準に従い公表されているものでもある。

 これはあくまで国による債務、つまり国債と借入金(交付税特会借入金を含む)残高となる。「普通国債」と「借入金等」に、ここには財投債と政府短期証券が加わる。

 ここには地方債務(地方債及び交付税特会借入金以外の借入金等)は含まれていない。財投債や政府短期証券まで組み入れるのは無理があるとの見方もある。

 このように日本の債務残高をどの数値でとらえるべきかについてもやや議論が分かれるところでもある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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