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バイデン米政権の大型の経済政策により、米長期金利は1.7%台に上昇

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 3月30日の東京時間に米10年債利回り(米長期金利)はじりじりと上昇し、1.75%あたりまで上昇した。米国時間の早朝には1.77%に上昇した。

 3月19日にFRBは銀行の自己資本比率に影響する補完的レバレッジ比率(SLR)の特例措置を延長しないと発表、銀行による国債の売りが出るとの懸念から、この日の米10年債利回りは一時1.74%に上昇した。

 このあたりがいったんピークとなり、米10年債利回りは1.6%近くまで低下した。米債に押し目買いが入った格好ながら、四半期末のアセットアロケーションに伴う買いなども指摘されていた。株式と債券の運用比率が決められているところでは、米株価指数が最高値を更新するなどしたことで株式の時価総額が膨れ上がる反面、米債は売られ(利回りは上昇)していたことで、株価の比率が予想以上に大きくなり、債券は縮小することに。それを予定した比率に戻すため、米債を買い増すことになり、それによる買いも影響した。

 そういった買いが一巡後は、あらためて新型コロナウイルスのワクチン普及とバイデン政権の大型の経済政策による経済の正常化への期待、そして世界的なインフレへの懸念が強まりつつあることなどから、再び米10年債利回りは上昇圧力を強めたのである。

 さらにバイデン政権は最大330兆円の長期経済プログラムを検討中とも報じられたことにより、米国債の増発への懸念が強まったことも米10年債利回りの上昇要因となった。

 米10年債利回りのチャートをみると、2018年10月の3%台から低下基調となり、2020年3月に一時、0.3%近くまで低下した。その後、もみ合いとなったが、7月の0.5%あたりから上昇トレンドを形成し、3月30日に1.77%まで上昇したのである。

 次の大きな節目は、FRBの物価目標でもある2%であるのは確かだが、その前に1.9%も節目となっている。ひとまず1.9%あたりまで上昇したのち、物価動向などを確認しながら2%をうかがうといったことがチャートからは予想できる。

 特に物価に関しては、30日に発表されたドイツの3月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比2%となった。一時的な要因もあったようだが、燃料価格の急騰も影響した。昨年4月には原油先物価格はマイナスになるなどしており、前年比での物価は上昇しやすい環境にある。

 一時的な要因もあるものの、原材料価格が上昇しつつあり、新型コロナウイルス感染が、ワクチン普及で次第に収まるようであれば、急速に需要が回復するペントアップディマンドが発生する可能性もある。

 デフレだ、デフレだと騒ぐのも良いが、それによるリスクを想定するよりも、現在の状況でむしろ心配すべきは、このような急激な需要回復などによる思わぬ物価の戻りとそれによる長期金利への影響ではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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