日銀は長期金利の変動幅拡大を容認すべき
3月8日に日銀の雨宮副総裁は読売新聞でのオンラインセミナーで講演を行った。コロナ禍であり、オンラインセミナーという形式は意外性はないが、18日、19日の金融政策決定会合での「点検」に市場が関心を高めている最中であり、しかもこれが一部参加者向けではなく、決定会合後の総裁会見と同様に誰でも視聴できる形式となっていたことが、極めて異例と感じた。これは日銀が市場参加者を含め、多くの人に「点検」の意味とその理由を説明するためのものとみられた。
ここにきて米国の長期金利が上昇基調となり、10年債利回りが一時1.6%台を付けるなどしていたことで、日本の長期金利も動意を見せ始めていた。そこに日銀の点検で長期金利コントロールのレンジを拡大かとの事前報道もあったことで、日本の長期金利も戻りを試すというか、どの程度まで上昇しうるのかを試すような動きとなった。
米長期金利の上昇が日銀の想定内であったのかどうかはタイミングからみてわからない。米長期金利の上昇で日本の長期金利も動意をみせたことで、レンジ拡大の有無も不透明とはなっていた。
そこに飛び込んできたのが、5日の黒田総裁は発言であった。長期金利の変動幅について「『点検』の中で当然、議論になると思うが、私自身は、変動の幅を大きく拡大することが必要とも適当とも思っていない」と述べたことで、長期金利の変動幅の拡大はないとの見方が強まり、債券相場は大きく買い戻された。
しかし、ここで注意すべきは「私自身は」との表現であったのかもしれない。日銀の金融政策を決める金融政策決定会合は委員会制をとっている。日銀総裁といえども一票しかもっていない。たとえば英国のイングランド銀行では、総裁が反対票を投じ少数派となったケースもあった。
ただし、日銀の場合は政策委員のなかでの総裁と副総裁の二人のいわゆる執行部と呼ばれる3人の意見が割れることは通常はありえない。現実には副総裁が反対票を投じたケースがあり、絶対とはいえない。
しかし、少なくとも現在の執行部で票が割れることは考えづらい。特に黒田総裁と雨宮副総裁で意見が分裂してしまうと、リフレ派などのバランスも考えると適切な金融政策が取れない状況ともなりかねない。
8日の雨宮副総裁のオンラインセミナー後の質疑応答では、5日の黒田総裁の発言について「(長期金利の変動幅拡大の是非について)点検の中で議論になると前置きした上で、自身の考え方として発言したもの」と指摘した。黒田総裁は個人的にはレンジ拡大には反対のようだが、雨宮副総裁はその必要性をセミナーで説いていた。
雨宮副総裁のオンラインセミナーでは、イールドカーブ・コントロールの導入後、多くの指標が、国債市場の機能度が低下したことを示していると指摘していた。長期金利の変動幅拡大をするための理由としては、まさにこれがポイントになっているとみられる。
米長期金利の上昇で日本の債券市場も動揺を示している。これに対し市場機能がしっかりしていれば、相場がおかしな動きをみせることも少なくなろう。市場がある程度自由に動くことで、市場参加者が相場の読みといった経験も積むことが出来る。ある程度のレンジに押し込めてしまうと、経済や物価動向を先読みして動こうにも動けなくなってしまうし、相場が動くという経験も積めなくなる。本来であれば長期金利コントロールそのものを止めるべきだとは思うが、現在の日銀のスタンスからはそれができない、そうであれば多少のレンジの拡大は容認すべきということになろう。