Yahoo!ニュース

年末の米国株式市場でダウ平均は過去最高値を更新。バブル崩壊前の1989年末の東京株式市場を彷彿か。

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2020年最後の取引となった12月31日の米国株式市場では、代表的な株価指数であるダウ工業株30種平均は前日比196ドル92セント高の30606ドル48セントと過去最高値を更新して引けた(東京市場は31日は休場)。

 過去最高値を年末の引けで更新したといえば、1989年の東京株式市場を思い出す。今回、あらためて当時の東京株式市場の状況と今回の米国株式市場の状況を比較してみたい。

 1985年のプラザ合意では、米国の貿易赤字と財政赤字の双子の赤字問題による対外不均衡を、先進各国は為替相場の調整でこれを是正することとし、ドルを引き下げる方向で合意した。ここから円高が進行し、日銀は政策金利である公定歩合を徐々に引き下げてきた。1987年に公定歩合を2.5%と過去最低水準にまで引き下げ、それが1989年5月まで続いた。これが株式市場の上昇の土壌となっていた。

 1987年2月9日、2年前に民営化したNTT株が株式公開された。1次売り出し価格は119万7000円となっていたが初日は値が付かず、翌10日に初値160万円という高値で売買がスタート。その後もさらに買い進まれ、公開から2か月で、史上最高値の318万円まで高騰した。これをきっかけにこれまで株に興味のなかった個人にも株式投資が浸透しはじめた。

 1987年10月のブラックマンデーで米国株が急落したことを受け、NTT株は225万円まで暴落した。日経平均も大きく下落したものの、日銀の低金利政策は続き、NTT株をきっかけとした株価の上昇は続いた。しかし、1989年に入ると日銀は公定歩合を数度にわたり引き上げ、完全に金融引締策へと転向した。それでも、NTT株の上場などをきっかけとしたバブルの勢いは年末まで続き、日経平均株価は、その年の大納会の大引けは38915円を付け、過去最高値を更新した。これはいまだに突破されてはいない。

 それでは今度は、昨年の米国株式市場の動向をダウ平均で確認してみたい。2019年末にかけてダウ平均は上昇基調を維持し、12月23日に過去最高値を更新していた。2019年の1月にFRBは利上げ停止を示唆し、7月と9月、そして10月のFOMCで予防的な利下げを行った。9月のECB理事会でドラギ総裁はドイツなどの反対を押し切って、マイナス金利の深掘りを含む包括的な金融緩和策を決定した。

 景気そのものが絶好調というわけではなく、米中の関税合戦が繰り返され、これによる世界経済の減速懸念が強まっていた。英国のEU離脱の行方が不透明となり、これもリスク回避要因となった。しかし、このリスク要因を受けた景気への影響を懸念しての、中央銀行の金融緩和策が結果として株価を押し上げていたともいえる。

 2020年に入り、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、ロックダウンなどが実施されて、経済活動に急激なブレーキが掛かった。ダウ平均は2月12日に29568ドル57セントをつけて、ここが当時の最高値となった。ここから下落し、3月23日に18213ドル65セントという安値を付けたのである。

 ところがここからダウ平均は急回復した。4~6月期の米国GDPは少なくとも1940年代以降で最大の落ち込みを示した。それでも人為的な経済活動へのブレーキが要因であったことから、その反動への期待もあった、さらにFRBによるゼロ金利政策や量的緩和策の再開も相場上昇に大きな影響を与えた。その大胆な金融緩和策を「完全雇用」「インフレの2%到達」「インフレがしばらくの間2%を緩やかに上回る」という3条件も示し、緩和策の長期化も示唆した。

 ここに米国政府による積極的な財政支援策が加わる。2020年3月から4月にかけて4度にわたる経済対策がまとめられ、合計で約2.4兆ドルと過去最大規模の財政政策が実施された。ちなみに2008年から2012年にかけてのいわゆるリーマン・ショックと欧州の信用不安という危機対策では合計1.8兆ドルであったことをみても、この際の財政政策の規模の大きさがうかがえる。

 中央銀行による積極的な金融緩和策と財政政策が結果として、株価を急速に押し上げた格好となった。また、新型コロナウイルスは社会生活も一変させ、その恩恵をハイテク株が受けることから、米国経済の牽引役でもあったGAFAなどの株価が大きく上昇したことも影響した。

 1989年の東京株式市場での日経平均はブラックマンデーによる一時的な調整はあったものの、そこから急回復し年末に過去最高値を更新した。そして2020年の米国株式市場でのダウ平均も3月に大きな調整があったが、そこから急回復している。

 そして株価を引き上げた要因としては、両者共に中央銀行の金融緩和策も絡んでいたであろうことも確かである。

 1989年末の過去最高値を記録した日経平均はその後急落し、バブル崩壊という言葉ができた。米国株式市場でも同じことが起きるのかどうかはわからない。ただし、1989年当時に債券ディーラーとして市場の動きを肌で感じていた私としては、このときは債券バブルと呼ばれたものが1989年中に株より前に崩壊し、債券相場が先に下落(利回りは上昇)していたことを強調しておきたい。もし今回も大きな調整が起きるとすれば、先に債券市場がそれを示唆する可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事