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日本の債券市場が膠着状態となってしまった理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 ここにきて日本の債券の動きが小さくなりつつある。債券市場のベンチマークともいえる債券先物の日中の動きについて、ここ1年間の月別の平均値を手元のデータから出してみた。

 2019年11月が27銭、12月が28銭、2020年1月が19銭、2月が23銭、3月が63銭、4月が27銭、5月が16銭、6月が15銭、7月が14銭、8月が15銭、9月が12銭、10月が11銭、そして11月が25日までの平均でやはり11銭となっていた。

 日銀による異次元緩和により、日銀が流通している国債の半分程度を保有するようになった。日銀は保有している国債売りオペで売却することは可能であるが、それを行うことは現状では考えられない。それほど緩和に姿勢が傾倒している。むろん、現在のコロナ禍にあって、その姿勢を貫かざるを得ない面もあろう。

 つまり国債残高の半分近くを保有するところは、買うだけで売りはしてこないことになる。当然、その分の流動性が落ちるであろうことは確かである。さらに日銀は長期金利コントロールも行っていることで、長期金利は押さえつけられている。

 海外の長期金利も低位で推移しており、25日にイタリアとポルトガルの10年債回りが一時過去最低を更新していた。米長期金利はやや上昇しているがそれでも1%に達していない。

 この世界的な国債利回りの低迷には、中央銀行による買入だけでなく、コロナ禍による物価の低迷なども背景にあろう。リスク回避による国債買いなども国債の利回りを押さえつける要因となる。

 ただし、日本の10年債利回りについては、市場参加者はマイナス化は避けたいとの意向も強い。日銀のマイナス金利政策の導入により、国債利回りは大きく低下し、イールドカーブが潰された。金融機関の収益源ともいうべき利ざやが縮小、運用利回りも低下した。これにより金融機関からマイナス金利政策への批判が強まり、その結果として長期金利コントロールが生まれたという背景もある。

 長期金利コントロールとは10年債利回りをゼロ%に押さえつける反面、それより長い期間の利回りは引き上げようとするものでもあった。しかし、国債利回り全体に低下圧力が掛かるとなれば、身動きが取りづらくなってしまう。

 その結果として、ここにきての日本の債券市場が膠着相場となってしまい、債券先物の値幅も縮小してきた。

 このまま債券市場は動かなくなってしまうのか。そのようなことはないと思われる。むしろ、これは嵐の前の静けさなのかもしれない。何かしら材料が出ると、今年3月に平均63銭も動いたように大荒れとなる。この際はコロナ禍という特殊な材料によるものではあったが、同様の動きがいずれ出てもおかしくはない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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