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日本の債券の動きが鈍くなったのはどうしてなのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 日本の債券市場の動きが止まっている。完全に休止しているわけではないが、日々の値動きは限定されている上に方向感に乏しい展開が3月に乱高下したあと続いている。

 これに対して米国債は8月上旬に0.54%あたりまで低下したあとは、上昇基調に転じつつある。10月21日には0.8%台に上昇し、4か月ぶりの水準をつけていた。こちらはある程度トレンドが形成されていた。

 しかし、これに対して日本の債券市場では、ベンチマークともいえる債券先物は152円を軸としてこの近辺での動きが続いている。10年債利回りはマイナスにはならないものの、かろうじてプラスの状態が続いている。5年債の利回りはマイナス0.100%近辺、20年債利回りは0.400%あたりが居心地が良さそうである。

 本来であれば、国の財政状況、物価や経済動向などが国債を主体とした債券市場の変動要因となるはずである。今年度の歳出は160兆円と過去最大、新規国債の発行額も過去最大、債務残高のGDP比も過去最高になっている。しかし、国債の需給バランスは日銀の国債買い入れなどにより保たれ、日銀のマイナス金利政策と長期金利コントロールによって利回りも低位に押さえつけられている。

 物価はコアCPIで前年比マイナスとなり、4~6月期のGDPは過去最大の減少となった。しかし、10年債利回りのマイナス化は避けたいとの市場参加者の意向も強く、日銀としてもこれを意識しているとみられる。そもそも長期金利コントロールは長い期間の国債利回りを少しでも引き上げようという意図もあり、その軸となる10年債利回りを無理にマイナスに引っ張りたくもないはずである。

 日本の金融市場は国内での材料難というか、欧米の市場動向に目を向けている。米国の大統領選挙や追加の経済政策、そして欧米での新型コロナウイルスの感染の再拡大とそれの対策などが注目材料となっている。

 しかし、あくまで注目はするが、欧米市場の動向が強く東京市場に反映されているわけでもない。日経平均は3月の乱高下後は上昇基調とはなっていたが、ここにきては動きが債券のように鈍くなっている。

 果たしてこの膠着相場はいつまで続くのか。市場は何かしらのきっかけ次第で大きく動く可能性を秘めている。首相が交代しても特に東京市場は動揺は見せていない。いまは金融市場にとっての安定期といえるのか。それともこの間にマグマを蓄積しているのか。いずれこの答えは出てくると思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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