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中国は何故、デジタル人民元の発行を急ぐのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 中国人民銀行(中央銀行)は23日、法定通貨の人民元にデジタル通貨も加える法制度を固めた。中国人民銀行法改正の草案では「人民元は実物形式とデータ形式からなる」と規定し、デジタル通貨の発行に法的根拠を与える。仮想通貨のリスクを避けるため「いかなる組織や個人もデジタル通貨を製造、発行してはならない」とした(23日付日経新聞)。  

 2022年2月の北京冬季五輪までの発行をにらみ、暗号資産(仮想通貨)など民間のデジタル通貨の発行も禁じた格好となる。

 どうして中国はデジタル人民元の発行を急ぐのか。そのひとつの要因として、中国ではすでにスマホを使った決済が進んでいることで、デジタル通貨の導入に抵抗が少ないことがあげられる。

 さらに中国政府は資金取引の管理を強化する狙いがあるとされる。紙の現金の持つ最大の特徴として「匿名性」があげられる。要は不正な資金のやり取りを掴み、脱税なども出来ないよう監視する狙いがあると思われる。これは極端に言えば、ジョージ・オーウェルの小説「1984」のビッグブラザーを連想させる。

 さらに中国のデジタル人民元の発行の狙いとして、中央銀行デジタル通貨(CBDC)のプラットフォームをいち早く完成させたいのではなかろうか。

 デジタル社会の基幹のひとつがインターネットであり、そこにスマホなどの端末がつながり、いわゆるネットで多種多様なことを可能にしている。しかし、そこには検索としてグーグルやヤフー、通販ではアマゾン、友人や家族とのやりとりにフェイスブックやLINEなどといったような専門の「プラットフォーム」が存在する。

 そのプラットフォームは分野毎に、ほぼ寡占状態となっている。中国はデジタル通貨におけるプラットフォームを先んじて形成し、シェアを一気に高めたいという狙いもあるのではなかろうか。

 復旦大学(上海市)の孫立堅教授はデジタル人民元について「中国は新たな決済システムネットワークをつくり、米国の独占的地位を打ち破る能力を持っている」と主張していたそうである。(26日付日経新聞)

 広東省深せんや五輪会場など5カ所を実験エリアに選定。深せんでは12~18日、市民が買い物などの決済に使う大規模実験をした。4万7573人が1人200元(約3100円)ずつ受け取り、合計876万4000元の決済を終えた。実験を北京の市内や天津市、上海市、広州市、重慶市など主要都市を網羅する28地域に広げるそうである(26日付日経新聞)。

 念の為、今回のデジタル人民元には、ビットコインなどの仮想通貨と異なり、ブロックチェーン、即ち取引の認証に銀行を必要としない分散型台帳技術は使われていない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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