菅政権への期待と不安、市場ではアベノミクスに比べて物足りなさを意識か
2012年12月の安倍政権の発足時には、個人的に期待よりも不安が強かった。安倍自民党総裁は12月の衆院選挙に向けて、輪転機発言をするなどいわゆるリフレ派が掲げる政策を目指していたことが明らかとなったためである。
2013年1月に日銀は2%の物価目標の導入を決定し、政府・日銀は共同文書発表を発表した。そして、3月に日銀総裁に黒田東彦氏、副総裁にリフレ派の岩田規久男氏と、日銀プロパーの中曽宏氏が就任した。時を置かず、4月に日銀は量的質的金融緩和を導入し、いわゆる異次元緩和を決定した。
リフレ政策が2012年末あたりからの円安株高を招き、それによって日本経済が活性化し、これはアベノミクスと称された。しかし、いくら日銀が緩和を行っても自在に物価が操れるわけではないことが、結果として実証されることになる。さらにアベノミクスによる円安株高も世界的なリスク回避の動きが始まったところに、安倍首相の発言からヘッジファンドなどが仕掛けた結果でもあった。
それでも景気が回復したタイミングにアベノミクスが出てきたこともあり、経済政策はうまくいったと一般にはみられた。たまたまタイミングが良かったとも言えた。
しかし、思うように物価は上がらず、日銀はさらなる追加緩和に追い込まれ、長短金利操作付き量的質的緩和政策を導入することになった。世界的なリスク後退のタイミングで、あのような異次元の金融緩和策をやる必要性はなかったわけではあるが、結論からいえば、あのとき日銀が異次元緩和を採用せずとも、いずれコロナ禍などによって強力な緩和策はとらざるは得なかったように思われる。日銀が異次元緩和に追い込まれるのは歴史の必然であったようである。
その日銀の異次元緩和策にどれだけ菅官房長官が関与していたのかは不明ながら(一部リフレ派と近く、それなりに関与していた可能性はある)、管政権では(すてに目標未達が明らかとなった)金融政策が主軸に置かれることはないとみている。まずはコロナ禍にあって、新型コロナウイルスの感染拡大防止と景気拡大を同時に行うという難しい対応に迫られよう。
「役所の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打倒して規制改革をしっかり進めていきたい」との菅自民党総裁の会見時の発言もあった。まずはコロナ禍からの脱出が優先され、そのあとにこれまで手がつけづらかった役所の縦割りによる弊害などを取り除く作業が必要になってくるということか。
このように、いまのところ菅政権では、現実的な政策を打ち出してくるのではないかとみられる。しかし、市場ではアベノミクスに比べて物足りなさを意識してくるかもしれない。それがここにきての円高のひとつの理由のように思える。
やや不安があるとすれば、非常時対応とはいえここからさらに国債増発を伴う大規模な経済対策などを打ち出してくる可能性である。すでに日本の財政ではワニの口の上顎が外れてしまっている。コロナ後の財政再建の道のりも示すことも必要なのではないかと思われる。