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中央銀行は物価や金利をコントロールできるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 中央銀行は物価や金利をコントロールできるのか。日本銀行の金融政策の目的は、物価の安定を図ることにある、それならば当然、コントロールできる、との見方は実は正しくはない。

 31日の日本経済新聞(朝刊)へのフィナンシャルタイムスからの寄稿で、次のような指摘が東京支局長のロビン・ハーディング氏から出されていた。

 「こうした批判で興味深いのは、中央銀行には金利をどんな水準にも恣意的に決める力があるとみている点だ。ごく短期間なら可能かもしれない。だが、ある程度以上の期間にわたって中央銀行が金利を固定することはできないし、まして物価をコントロールすることもできない。一般に認識されている以上に、中央銀行は経済の基調的な動向の僕(しもべ)であって、主人ではないのだ。」

 中央銀行が本来コントロールできるとされていたのが短期金利である。資金の調節には日銀が大きな影響力を持つことから、短期の金利を政策目標に置いて、それを上げ下げすることによって物価にも影響を与えようとした。

 このため、昔は「公定歩合」、その後は「無担保コール翌日物」と呼ばれる金利が日銀の金融政策における調整目標となっていた。これはFRBなど他の中央銀行も同様である。しかし、この政策金利がゼロ%相当となってしまったことで、あらたな政策が求められた。

 そのひとつが国債などを買い入れる量的緩和策、そして政策金利をマイナスとするマイナス金利政策、さらには長期金利を政策金利とするイールドカーブコントロールなどである。

 日銀の金融政策は金融市場を通じて行われる。つまり、日銀が原油などを購入して物価に直接働きかけるものではない。政策金利の短期金利の目標値を上げ下げし、その目標値に近づけるために資金調節を行う。資金量の調節によって物価に働きかけている。日銀が金融政策を変更したということそのもので、インフレを抑制する、デフレを回避する、景気の下振れを防ぐ、などの意図が伝わり、それが市場参加者を通じて拡がることで心理的な効果も狙っている。

 つまり中央銀行の金融政策は能動的に物価や景気に直接働きかけるものではない。ロビン・ハーディング氏が指摘するように、日銀が物価や金利を自由に動かせるものではない。だからこそ2%という物価目標を掲げても、それは日銀の政策だけでは達成できないことを7年以上掛けて証明している。

 いや物価はさておき、金利ならば市場を通じて中央銀行は動かせるはずである、との意見もあろう。現実に日本の国債市場で大きな存在力を示す日銀は10年国債の利回りを押さえつけて、それを維持させているように見える。しかし、日銀が押さえ込まなくても、物価そのものはゼロ%付近に止まり、結果として10年国債の利回りが低位で安定しているとの見方もできる。

 これがもし何かしらのきっかけで物価が大きく上昇したり、国債への信認が毀損したりすれば、日銀は国債利回りの上昇を抑えることは難しくなる。日銀はいくらでも国債を買えるはずと言われるかもしれないが、国債の発行額には限度があるとともに、日銀が際限なく国債を買い入れるとなれば、財政ファイナンスとの認識が高まり、市場への国債の売り圧力は余計に強まろう。国債はほとんど国内の資金で賄われていることで、海外投資家から売りが入ってもそれによる影響は限定的との見方もある。しかし、国内投資家の日本国債への売りが当然考えられる上に、海外投資家も先物などのデリバティブを使った売りも可能である。現状、日銀は指し値オペの対象を10年国債のみに限っている。

 これはあくまで日本国債への信認が毀損するという現状考えられないことが起きた際となる。それでも、日銀が長期金利をこのまま押さえ込むことは本当にできるのかと言うことに対しては疑問が残ることは確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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