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7月からの国債の大型増発は、やはり無視はできない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応する今年度の第二次補正予算による追加の歳出は総額31兆9114億円となり、補正予算としては過去最大の規模となった。これは国債の増発によって賄われる。赤字国債は22兆6124億円、建設国債を9兆2990億円、さらに財投債が32兆8000億円発行される。

 この二次だけで過去最大規模の補正予算となる。これにより第二次補正予算に伴う国債の増発額は64兆7114億円もの大きさとなった。このうちカレンダーベースの市中消化額の増額分は59兆5000億円、第二非価格競争入札分が1兆80億円、前倒し発行分を使った年度間の調整分が4兆2034億円となる。

 カレンダーベースでは、30年債が7月以降は毎月9000億円、20年債は同毎月1.2兆円、10年債は同毎月2.6兆円、5年債は同毎月2.5兆円、2年債は同毎月3.0兆円などとなる。市中消化の増額だけで60兆円規模となり、中短期主体にダイナミックな増額規模となる。

 これを市場は織り込み済みだったとは思えないものの、日銀の国債買い入れがバッファーと認識されてか、債券市場にそれほどの動揺はいまのところ与えてはいない。日銀の異次元緩和による国債買い入れとイールドカーブコントロールがもし存在しなければ、これを受けて需給バランスの悪化が意識され、債券相場が大きく下落してもおかしくはなかったはずである。

 さらに格付け会社の格下げ懸念なども当然出てこよう。格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは6月9日に日本国債の格付け見通しを下方修正したと発表した。しかし、これによる債券市場への影響も限られた。

 それでも多額の国債発行が、中央銀行の国債買い入れによって需給バランスが維持されている状態は決して健全とはいえない。国債の利回りが上下することにより、財政リスクが示されるということも現状はなくなっている。日本の財政リスクを見守るという国債による炭鉱のカナリアの機能は失われている。

 そうはいうものの、財政拡大リスクを日銀がカバーするような状況はいずれ限界がくるであろうことも確かである。リスクは覆い隠されているだけで、それが消滅したわけではないことも認識すべきと思う。

 7月からの国債の増発に市場はどのように反応するのか。いくら日銀の買い入れがあろうとも完全に無視はできないはずある。新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念もあり、リスク回避で国債が買われるような場面もあるかもしれない。とはいえ、国債の潜在リスクが国債の上値そのものを重くさせてくる可能性はある。もしも、想定以上の経済の回復などが起きるようなことになると、国債の利回りが思わぬ動きをしてくる可能性もないとはいえない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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