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いまの日銀の金融政策に必要なのは追加緩和より柔軟性なのでは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 6月15、16日に開催された日銀の金融政策決定会合における主な意見が公表された。このなかから少し気になった意見を採り上げたい。

 金融経済情勢に関する意見のなかに次のような意見があった。

 「今後、経済活動が徐々に回復に向かっていく過程で、過剰となった設備の調整や企業・家計の行動の変化が目に見える形で顕在化してくると思われる。現下の状況が唐突かつ予期せぬ形で到来しただけに、前向きの変化が生じる可能性もある一方、経済への下押し圧力ともなり得る点には警戒が必要である。」

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大とその防止策による人や物の移動の規制は、テレワークに代表されるようなデジタル化をより促進させることが予想される。とはいえ一気に変化することも考えづらい。「過剰となった設備」とあるが、どの分野の何が過剰といえるのか。今後の正常化でそれが本当に過剰といえるのか。このあたりの見極めは難しい。

 「金融市場では、先行きへの期待から、足もとの実体経済の厳しさと比べると高値となっており、資産価格に修正が生じないか、今後の市場動向を注視する必要がある。」

 至極真っ当な意見にみえるが、この場合の金融市場で高値となっているのは株価を示すものと予想される。株価が、足もとの実体経済の厳しさを反映しておらず、先行きへの期待から想定以上の水準で推移しており、今後調整余地(下落余地)が大きいのではないかとの意見である。そのようにもみえるが、そもそもこの過剰流動性相場を生み出した原因を考慮すると他人事ではないとも思うのであるが。

 物価については下記の意見が出ていた。

 「やや長い目でみた物価の動向については、現時点では、需要の急速な回復が期待しにくいもとで、予測可能な将来に、物価がモメンタムをもって2%に近接していく姿を予想することは難しい。」

 物価目標の旗を降ろせとまではいわないものの、委員のなかでこのような認識がもし拡がっているのであれば、物価目標をより柔軟化させる必要はあるのではなかろうか。

 「企業の倒産・休廃業の増加は、雇用、物価と金融に悪影響をもたらしかねず、再びデフレに陥らないように警戒すべきである。」

 警戒するのは大事だが、デフレに陥らせないように金融政策でできることを考慮するのではなく、企業の倒産・休廃業の増加を食い止める手段が当然、重要視される。

 金融政策運営に関する意見では下記の意見があった

 「引き続き、新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム、円貨・外貨の上限を設けない潤沢な供給、ETFなどの積極的な買入れ、の3つの柱により、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めていくことが重要である。」

 前のふたつはわかるが、ETFなどの積極的な買入れがどうして金融市場の安定維持に繋がるのか。前述の意見のなかに「足もとの実体経済の厳しさと比べると(株価が?)高値となっており」、そのリスクに注視ともあるのだが。

 「国全体で経済成長を確保していくように促す雰囲気作りや、必要な支援を継続し、企業や家計の成長期待が大きく損なわれないようにしていくことが肝要である。」

 政府は雰囲気作りのために巨額の国債を増発して過去最大規模の補正予算を組んだのであろうか。

 「予想物価上昇率が2%にアンカーされていないもとでデフレに陥ることは、物価安定の目標達成の重大な障害になりうるため、先を見越した追加緩和が現時点で必要である。」

 まだこのような意見が出ている。特に2013年以降の過去を踏まえた金融政策を行っていただきたいとも思うのだが。

 「アベノミクスの3本の矢を最大限、継続して働かせることが求められる。」

 アベノミクスの3本の矢とは懐かしいものでしかなくなっていると思う。

 「感染症により物価安定の目標の達成が後ずれし、金融緩和の一層の長期化が想定される中、副作用のさらなる累積にも配意しながら、実体経済の悪化が金融システムの安定性に影響を及ぼすことがないよう、これまで以上に慎重に検討していく必要がある。」

 感染症がなくても後ずれしているとは思うが、副作用のさらなる累積には確かに注意する必要がある。そのためにも必要なのは柔軟性であると思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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