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5月と6月の個人向け国債の発行額が急減、緊急事態宣言による影響も

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 5月と6月の個人向け国債の発行額が急減していた。4月に個人向け国債は3つのタイプ合計で、6200億円発行していたのだが、5月は563億円、6月は662億円と十分の一近くに減少していた。

 個人向け国債の発行額がこれほどまでに減少したのはどうしてなのか。利率については(変動は初期利子)、3つのタイプいずれも最低保証の0.05%となっており、引き下げられたわけではなく条件は同じであった。

 5月発行の個人向け国債の募集期間は4月、6月発行の募集期間は5月ということで、新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言による影響があったことは確かであろう。

 個人向け国債を販売する金融機関も証券会社などでは店舗を閉めるなどしていたことで、営業活動そのものを自粛していた。しかし、これだけの急減は営業活動の自粛だけによるものとは考えにくい。

 証券会社などは、4月以降に国債購入者へのキャッシュバックキャンペーンの中止をしていたことも大きく影響していたようである。このキャッシュバックは購入者にとっては利子相当とも受け止められていたようで、これによる購入者のインセンティブは大きかった。

 そして、6月10日に開催された国債トップリテーラー会議の資料には、発行後1年経過直後の中途換金率は年々上昇傾向にあることも示されていた。平成30年度は発行後1年経過直後に、発行額の約3割が中途換金されていたそうである。

 個人向け国債は、3つのタイプともに発行後1年経過後であれば、中途換金をすることが可能。販売する証券会社などでは1年後に換金してもらい、新たに個人向け国債を購入してもらえば募集手数料が入る。中途換金の理由がすべて乗り換えのためということではないと思われるが、乗り換え営業が行われていた可能性はある。

 これもあってか、財務省は手数料体系の見直しを検討しているようである。2020年10月発行債から、募集発行事務取扱手数料を引き下げるとともに、新たな手数料として管理手数料を導入するとか。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言による証券会社などの営業自粛と、乗り換えそのものの自粛の必要性が今回の個人向け国債の発行額の大幅な減少に繋がった可能性がある。

 ただし、個人向け国債はリスク回避先資産としては最適であることは確かで、利子そのものより、そのあたりの認識が拡がれば、安定した販売も可能であると思う。しかし、個人は利子、もしくは利子相当分に目が向かいがちであるのも確かではある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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