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チャートは嘘はつかない(?)、反撃の株価

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 4月30日の東京株式市場で日経平均は2万円台を回復。今年1月の高値から3月の安値までの下落幅の半分を戻す、いわゆる半値戻しを達成した。

 相場の格言の一つに「半値戻しは全値戻し」というものがある。下落幅の半分まで値を戻した相場は、いずれ元の水準まで戻る勢いがあることを示す。

 しかし、4月30日時点での株価の戻りについては半信半疑というか、市場参加者の多くは一時的なものであり、歴史的な経済指標の悪化を受けて再度下落する可能性が高いとみていたのではなかろうか。私自身もこの株高に違和感を持っていた。

 ただし、自分が相場の世界に入って30年以上経つが、その経験からの自説のひとつに株価などの市場価格は嘘はつかないというものがあった。何か見えないものを示している可能性があり、それはあとからみて理解できることが多い。だから株価、私の場合は債券ディーラーだったので債券価格の動きには正直について行く方が身のためだということを特にディーラー時代に嫌というほど味わわされた。

 4月30日に日経平均に関するコラムを書いたとき、最後に「株のロングポジションを持てとまでは言い切れないが、少なくともショートポジションはいったん解いた方がよいとは思う」と書いたのはそのためである。

 実際にはそれ以降、いったん株価は調整を迎えたので、ショートポジションでも買い戻すタイミングを間違えなければ儲かった。しかし、結果としてショートポジションを持ち続けることはやはり危険であった。

 それを特徴付けることが起きた。米国株式市場の代表的な指数であるナスダック総合指数が過去最高値を更新し、全値戻しをいち早く達成したのである。

 ナスダック総合指数の過去最高値は今年2月19日につけた9838.37であった。コロナショックなどから下落し、3月23日に6631.42まで下落した。そこから再び回復基調になり、5月8日に9000ポイントも抜いてきた。2月19日から3月23日に下落したが、そこからの半値戻しは8234.89となり、これは4月14日にすでに達成していた。

 ナスダック総合指数とは、全米証券業協会(NASD)が開設・運営している電子株式市場NASDAQに上場している銘柄の全てを対象に時価総額加重平均で算出した指数となる。ハイテク株やインターネット関連株の多くが上場しており、ハイテク株の占める割合が高い。インテル、マイクロソフト、アップル、フェイスブックなどが上場している。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大抑制のための世界的な活動自粛の動きは、経済そのものに過去に例をみないような大きな打撃を与えた。ただし、自粛によりテレワークの増加、自宅でのネット利用の増加などもあり、ハイテク大手、ネット大手はむしろ恩恵を受けているところもある。このためナスダックがいち早く回復基調となった面もある。

 だからこそ注意して見るべき指数はダウ平均などよりも、ナスダック総合指数であるとみていた。ついにそのナスダック総合指数が8日に9924.75で引けて、引け値でも過去最高値を更新した。つまりナスダックがまず半値戻しから全値戻しを達成したのである。

 5月はじめの時点で、このナスダックが過去最高値を更新すると予想できた向きは私を含めてどれだけいたであろうか。私もあくまでチャート上は経験則から全値戻しはありうるとしていたが、足下の景気の落ち込み度合いなどからみてまさかという気持ちは当然強かった。

 今回も結論としていえるのは、「チャートは嘘はつかない」という経験則ではなかろうか。結果としてみると、この株価の戻りの原因としては、今回のコロナショックは大恐慌、リーマンショック、日本のバブル崩壊時と異なって金融システムに問題が生じたわけではないことがあった。また、ITバブルの崩壊のようにバブルが崩壊したのではなく、今回はあくまで人為的な経済活動の抑制であった。大地震などの自然災害時と違い、インフラを含め自宅、工場などが壊滅的な影響を受けたわけではない。つまり、コロナ自粛の解除により、リバウンドの可能性が十分あった。そこに大規模な政府の経済政策と金融緩和もフォロー要因となったことも確かではある。

 チャートだけをみて株式や債券などの金融取引を行うべき、と言うつもりはない。しかし、チャートにはあまり逆らわない方が良いということを今回の反撃の株価が示していたと思っている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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