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国債のなかの財投債とは何か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 今年度の第二次補正予算案に伴う国債の増発は、赤字国債は22兆6124億円、建設国債を9兆2990億円発行する。さらに財投債が32兆8000億円発行される。の二次だけで過去最大規模の補正予算となる。これにより第二次補正予算に伴う国債の増発額は64兆7114億円もの大きさとなった。

 赤字国債や建設国債はわかるが、財投債とは何か。赤字国債や建設国債とどう違うのか。これは別に一般の人が知らなくても問題はないといえば、そうかもしれないが、今回の対策がどのように使われるのかを見る上でも、念の為知っておいた方が良いと思われる。

 財政法を発行根拠法としているのが建設国債である。財政法の四条に記載されているため、四条国債とも呼ばれている。

 財政法では、健全財政主義の原則に基づき、基本的に国債の発行で財政を運用することを禁止している。これは、戦前・戦時の軍事費調達のために巨額の公債が発行され、その大部分が日銀で引き受けられた結果、戦後の激しいインフレーションの発生となったことに対する反省が一つの契機であったとされている。このため、国の歳出は原則として租税等によりまかなうべしとの非募債主義(国の財政は基本的に国債によらないとするもの)をとっている。しかし、公共事業費と出資金、貸付金の財源とする投資的経費に限っては財政法により国債の発行が認められており、そのために発行される国債が建設国債である。

 建設国債は公共事業などの財源となり、国の資産を形成するために発行される。道路や下水道、ダムの建設といった公共事業は多額の資金が必要とされるが、我々は将来も出来上がった設備・施設の恩恵を受ける。また、このような社会基盤が整備されれば、産業の育成などに貢献し、我々の生活にもプラスとなり、将来の税収入が増える要因となることも期待されるというのが、建設国債の発行を正当化する理由となっている。つまり負担の世代間公平という考え方に基づいて公共事業等に限り国債発行を認めているものとも言える。

 財政法に基づいて発行される建設国債に対して、特例国債(赤字国債)は特別法を制定し、特例により発行される。特例国債とは建設国債の発行をもってしてもなお歳入が不足すると見込まれる場合に、公共事業等以外の歳出に充てるための資金調達を目的として国債を発行しているのである。

 2001年度から特別会計に関する法律(第62条第1項)を発行根拠法とした財政融資資金特別会計国債、一般には財投債と呼ばれる国債が新たに発行されている。

 2001年4月に財政投融資改革によって、大蔵省(現財務省)の資金運用部は廃止され、郵便貯金及び年金積立金の預託義務が廃止された。郵便貯金や簡易保険、年金積立金で集められた資金は、それまで大蔵省(現財務省)の資金運用部に集められ、運用されていた。資金運用部はこの資金を旧住宅金融公庫・旧国民生活金融公庫をはじめとする公的金融機関や、旧日本道路公団などの公共事業実施機関、国の特別会計、地方自治体などに貸し出していたのである。

 しかし、財政投融資改革、いわゆる財投改革によって、資金運用部に預託する義務が廃止され、郵便貯金や簡易保険で集められた資金は郵政事業庁(後に、郵政公社を経由してゆうちょ銀行・かんぽ生命)、公的年金は厚生労働省の年金基金運用基金(後に、年金積立金管理運用独立法人)が、それぞれ独自で運用することとなったのである。

 財政投融資制度は、社会資本整備等により日本経済の発展に一定の貢献を果たしてきたといわれている。しかし、その規模が大きく膨らみ特殊法人等の事業の肥大化を招いたとの批判が出てきた。予算のチェックをあまり受けることなく、資金運用部から自動的に巨額の資金が特殊法人に流入されていた。自主的な資金調達を行う必要がないことで、市場のチェックを受けることがなく、特殊法人の経営そのものも不透明との指摘もあった。

 これらの点を踏まえて市場のチェックを受け、特殊法人等の改革・効率化にも寄与するために行なわれたのが財政投融資改革である。

 財政投融資改革により資金を必要とする財投機関は、市場から新たに資金を調達しなければならなくなった。このために発行されるのが、財投機関債、政府保証債、投融資特別会計国債(財投債)である。

 財投機関債とは、独力で資金調達できる法人が発行する政府保証がつかない債券。政府保証債とは独力では資金調達することが困難な法人が、財務省の厳正なる審査を受けた上で政府保証が付与され発行する債券。財投債(財政融資資金特別会計国債)とは、財投機関債、政府保証債のいずれでも資金調達が困難な場合に、財務省が発行する国債。そこで調達した資金を財投機関に融資する。

 財投債は国がその信用に基づいて発行するものであるため、建設国債や特例国債と同様に発行限度額について国会の議決を必要とする(「特別会計に関する法律第62条第2項」)。財投債の発行収入は財政投融資特別会計の歳入の一部となる。

 財投債の発行に際し経過措置として、2001年から7年間は、市場に配慮して郵貯、公的年金、簡保積立金が財投債の一部を直接引き受けていたが、その期間が過ぎた現在はこの直接引受けは行なわれていない。

 財投債はその償還や利払が財政融資資金による独立行政法人などへの貸付回収金により行われていることから、将来の租税を償還財源とする建設国債・特例国債とは異なる性質を持っている。このため普通国債残高(建設国債と借換国債の残高)と財投債残高は区分して示されているのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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