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東京オリンピックが延期もしくは中止となった場合の影響、日本の財政の悪化が意識される事態にも

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスが中国で感染が拡がった際に、東京オリンピック・パラリンピックの開催が危ぶまれるとの見方を持った人も多かったのではなかろうか。しかし、いまのところ、IOCも日本政府も予定通り開催するとの立場を貫いている。

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が5月末あたりで収束の兆しが見えなければ、延期される可能性が出てくる。しかし、延期そのものは各所のスケジュールを狂わせることになり、果たしてそれも可能なのか。中止の可能性もないわけではない。

 ではもし東京オリンピックが中止となった場合に、日本にはどのような影響が出てくるのか。宿泊施設や旅行業などには、それでなくても新型コロナウイルスによって打撃を受けているだけに、多大な影響を被りかねない。ただし、すでにインバウンド需要は極端に後退していることもあり、日本経済全体でみればその影響は一部に留まる可能性はある。

 それでも、すでに国のオリンピック関連支出は1兆円を超えているとも報じられているように、巨額の財政負担も生じている。もし中止となれば、すべてが無駄になるわけではないにしろ、予定された収入が得られないとなれば負担は大きくなる。延期とされはさらに追加負担が発生する可能性もある。

 前回の1964年の東京オリンピックの閉会後、日本国内で不況が発生した。これは東京オリンピックを控えて公共投資が活発化し、東海道新幹線や首都高速道路、東京モノレール、そして黒四ダムといった大型の公共工事が次々に行われたことでの反動という側面もあった。

 1965年に入ると、サンウエーブや山陽特殊製鋼など大手企業の破綻が相次ぐ。株価も急落し続け、信用不安も広がりをみせ、山一證券へ日銀特融が実行された。いわゆる「昭和40年不況」と呼ばれるものである。これを受けて戦後初めてとなる「国債発行」が準備されたことでも知られる。

 これと同様のことが起きるということは現状は考えづらい。しかし、このまま新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続き、東京オリンピックが延期もしくは中止となり、国内景気の後退が顕著となれば、同様の事態が起きないとも限らない。リスクシナリオとして意識しておく必要もあるのではなかろうか。

 さらに国の財政面では1965年当時に比べ、現在はさらに大きく悪化している。すでに一般政府債務残高は対GDP比230%を超えている。もし国内での景気悪化とそれに伴う財政拡大が起きた際には、あらためて1965年と同様に日本の財政の悪化が意識される事態となる懸念もないとはいえない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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