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シン・コロナショックによるキャッシュ化、中央銀行は今回も救世主になれるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 3月18日の欧米の金融市場の動きは、まるでゴジラが暴れ回ったかの様相となった。ニューヨーク株式市場ではサーキットブレーカーが発動し、ダウ平均は一時19000ドルを割り込んだ。引けは1338ドル安。

 通常であれば、この株安を受けてリスク回避から米債は買われるパターンが多いが今回は違った。米国債も大きく売られ、米10年債利回りは一時1.26%に上昇したのである。前日が1.08%であり、ここまで米国債の利回りが1日で大きく上昇するのは珍しい。

 この日は金(ゴールド)の先物も大幅反落となっており、外為市場ではドルが円などの幅広い通貨に対して上昇していた。これらの動きは、リスク回避ではなく、キャッシュ化(金融商品を売却し現金に戻す)といえる。最も安全とみられる現金のドルにするための換金売りが強まったといえよう。非常時には価格変動リスクなどが伴う金融資産からキャッシュに変える動きが強まることを今回の動きがあらためて示したといえる。

 この日にはキャッシュ化というだけでなく、危機的状況に大きく動揺した国債があった。それはイタリアの国債である。

 18日の日本時間の夕方、イタリアの10年債利回りは一時3%近くまで上昇しており、私もこれをみて驚いた。17日のイタリアの10年債利回りは2.35%であったので、そこからのさらなる急上昇であったのである。イタリアだけでなくドイツなど中核国を含めて欧州の国債は全般に急落(利回りは上昇)していたが、あのギリシャの国債と比較してもイタリアの国債の売られ方のほうがすさまじかった。

 これはいうまでもなく、イタリア国内での新型コロナウイルス感染の拡大ピッチが速く、イタリア経済に大きな打撃を与えることが予想されたためであろう。

 2010年あたりから始まったギリシャ・ショックをきっかけとした欧州の債務危機は、その後、イタリアやポルトガルが中心地となった。イタリアの10年債利回りが7%という警戒水域を上回り、ユーロ危機が強まったのである。これを結果的に沈静化させたのはECBであった。

 2012年7月にECBは新国債買入プログラム(OMT)と呼ばれる市場から国債を買い取る新たな対策を決定した。財政再建等に取り組む必要があるなどの条件付きながら、償還期間1~3年の国債を無制限で買い入れるという政策である。結局、OMTは利用されることはなかったものの、その存在が市場の動揺を抑える役割を果たした。

 今回もイタリア国債の急落を受けてか、ECBは緊急の対応策を打ち出した。18日夜(日本時間19日朝)に開いた臨時のECB理事会で、新たに7500億ユーロの枠を設け、2020年末までに国債や社債などを購入していくことを決めたのである。

 実は欧州時間ですでにECBが危機対応策を打ち出すのではないかとの観測で、イタリアの10年債利回りは2.42%と利回りの上昇幅は大きく縮小させていた。

 果たして今回も中央銀行は救世主となれるのか。19日にはFRBも動いた。FRBは18日深夜(日本時間19日昼)、MMF(マネー・マーケット・ファンド)向けに、緊急の資金供給に乗り出すと発表した。そして、日銀も19日に動きを見せた。この日に国債買入の予定はなかったはずが、午前中に総額1兆円の国債買入をオファーし、午後にも追加で3000億円の国債買入をオファーした。日本の債券市場では先物主導で売り圧力が強まり、10年債利回りがプラス0.1%に接近してきたことへの対応策といえる。

 しかし、中央銀行の金融緩和策といえども新型コロナウイルスの感染拡大は止められない。リーマン・ショックと呼ばれた危機は金融機関の問題、そして欧州の債務危機は財政の問題であった。

 今回の新型コロナウイルスはそれらとは異なる性質を持つ。いまのところは人や物の動きが止まることによる世界経済への影響が懸念されている。しかし、ここにきてのキャッシュ化の動きは、それが財政への問題に波及したり、あらたな金融危機を招く恐れがあることを示しているようにも考えられる。残念ながら中央銀行の大胆な政策もマーケットに対する一時的な緩和効果しかない。シン・コロナを倒すには国が他国とも連携し総掛かりで行わなくてはならない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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