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FRBはゼロ金利政策を再開、日銀も追加緩和策を決定、それでも株は下落、金融緩和は万能薬などではない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国の中央銀行にあたるFRBは15日、臨時のFOMCを開いて政策金利を1.0%下げて0.00~0.25%とした。2008年の金融危機以来の実質的なゼロ金利政策となる。

 公定歩合が適用されるディスカウントウインドー(連銀貸出制度)の利用を銀行に最長90日間認めるほか、準備預金率をゼロ%に引き下げるなどの措置も発表した。

 加えて、米国債などを買い入れて資金を大量供給する量的緩和政策も復活させる。今後数か月で米国債を少なくとも5000億ドル買い入れ、住宅ローン担保証券(MBS)も同じく2000億ドル購入する。

 パウエル議長は緊急利下げ発表後に電話会見し、FRBとしてマイナス金利に反対する立場をあらためて表明。FOMCの緊急会合を開いたため、今週予定されていた会合は中止になると説明した(16日付ブルームバーグ)。

 そして、日銀のサイトには「グローバルな米ドル流動性供給を拡充するための中央銀行の協調行動」との文章が公開された。これによるとカナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、米国連邦準備制度およびスイス国民銀行は、本日、米ドル・スワップ取極を通じた流動性供給を拡充するための協調行動を公表することとしたとある。リーマンショック時以来の対応となる。

 さらに16日、金融政策決定会合を前倒しで開き、追加的な政策対応を決めることになったと発表した。18、19日の金融政策決定会合を前倒しで開催し、1日だけの会合となり、ここで追加的な緩和措置を決定し、発表する。FRBの動きに連動したものといえる。

 日銀の追加的な金融緩和措置がどのようなものになるのか、これを書いている時点(16日の午前)ではわからない。個人的に注目しているのはマイナス金利政策の深掘りの有無であるが、ECBも先週の包括的な金融緩和策のなかにマイナス金利の深掘りは含めていなかった。FRBのパウエル議長もマイナス金利に反対する立場をあらためて表明しており、日銀もマイナス金利の深掘りは今回は含めてこないと期待したい。ドル円は107円近辺と13日に比べれば円安水準ともなっている。

 このため日銀としては、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けた経済への影響を見据えて、企業の資金繰りを支援するような政策を決めてくるとみている。市場への対策としては機動的なETFの買入などもあらためて含めてくるとみている。これも将来の出口政策を見据えるとできれば避けて欲しいものではあるが、そうも言ってはいられないか。

 ということを昨日書いていたが、結果として日銀は16日の前倒し会合で、追加緩和策を決定した。公表文のタイトルが「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化について」となっていたことからも、これは追加緩和となる。追加緩和は2016年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定して以来、3年半ぶりとなる。

 積極的な国債買入れなどにより一層潤沢な資金供給を実施する、新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペを導入する、CP・社債等の追加買入枠を合計2兆円設けCP等は約3.2兆円、社債等は約4.2兆円の残高を上限に買入れを実施する、ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1800億円に相当する残高増加ペースを上限に積極的な買入れを行う、という政策を決定した。マイナス金利の深掘りは今回は含めてこなかった。

 これを受けて16日の東京株式市場では、日経平均は一時300円を超す上昇となったが(ETFの年間約12兆円の買入枠増額を好感か)、金融政策によって新型コロナウイルスを消滅させることはできず、世界的な感染拡大による経済への影響が危惧され、この日の日経平均の引けは429円安となった。

 FRBによる1%もの利下げとそれによる実質的なゼロ金利政策、さらに量的緩和策も再開するなど、トランプ大統領が絶賛した政策を行ったにもかかわらず、17日の米国株式市場でダウ平均は2997ドル安となり過去最大の下げ幅を記録した。まさかと思うが、これは緩和策が足りなかったわけではないはずである。FRBの追加緩和策で新型コロナウイルスの感染拡大を防止することはできない。中央銀行の緩和策は万能薬などではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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