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新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、物価には下方圧力か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2月28日の米国市場では、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、経済への影響が懸念され、株式市場は大幅続落となり、ダウ平均は一時1085ドル安となった。しかし、FRBのパウエル議長は午後に公表した声明を受けて、利下げ観測が強まり、米国株式市場は引けにかけて急速に下げ幅を拡大させ、結局、ダウ平均は357ドル安となった。3月2日の米国株式市場でダウ平均は1293ドル高となり、今度は上げ幅が過去最大を記録した。

 米債はリスク回避の動きとともに、FRBの利下げ観測の強まりから、さらに買い進まれ、28日には一時、10年債利回りは1.11%まで低下し、過去最低利回りを更新した。

 そして、28日のニューヨーク原油先物市場では、世界経済の減速の懸念による原油需要後退観測などから大幅に下落した。WTI先物4月限は2.33ドル安の44.76ドルとなった。3月2日には値を戻し1.99ドル高の46.75ドルとなっている。WTIは40ドルあたりが下値の節目となっている。

 以前にも指摘したが、今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と1973年に生じたオイルショック時では、トイレットペーパー騒動など似たような現象は起きたものの、物価に影響を与える原油価格そのものがまったく正反対に動いている点に注意すべきと思う。

 サプライチェーンリスクは当然あり、今回の日本でも紙製品や保存できる食品などを中心にスーパーなどで品がなくなっていた。しかし、これはあくまでパニック的な動きであり、現実に供給が途切れたわけではない。

 1973年の日本でのトイレットペーパー騒動のことを知る年代の人は限られ(私は覚えている)、ましてや海外の人達は知るよしもない。今回のこの騒動はイタリアや香港などで先行して起きており、パニック時には生活必需品がまずなくなるということを示したものともいえるのではなかろうか。

 物価については上昇圧力というよりも、原油安などによる低下圧力が掛かりやすいとみている。これも金利の低下要因ともなる。

 また、FRBだけでなくECB、そして日銀についても市場の動揺を沈静化させる、もしくは経済への影響を少しでも和らげる手段が講じられることが予想される。

 昨日、日銀は「総裁談話」を発表した。

 「日本銀行としては、今後の動向を注視しつつ、適切な金融市場調節や資産買入れの実施を通じて、潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく方針である。」

 必要となれば潤沢な資金供給を行うことが示された。実際に2日には4年ぶりに国債買現先がオファーされ、ETFを1002億円買い入れた。1回の買入額としては過去最大となった。また、今後の動向次第では、欧米の中央銀行などと協力して、不透明感の払拭に努めることも予想される。

 ただし、日銀については実体経済への影響を考慮すると追加緩和策としてのマイナス金利の深掘りは不要であり、やらないほうが良いと個人的には考えている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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