市場での不安心理を沈静化するには、欧州債務危機の事例
金融市場では新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に怯え、不安心理が強まり、いわゆるリスク回避の動きを強めている。過去にも同様に世界的にリスク回避の動きを強めたことは何度もあり、リーマン・ショックやギリシャ・ショックなどはまだ記憶に新しいところである。
ギリシャの10年債利回りは2012年2月にデフォルトの観測も出たことで、一時40%台まで上昇した。しかしその後、ギリシャの支援策の受け入れを巡って一喜一憂することになる。ギリシャがユーロ圏を離脱するのではないかとの懸念も出たことで、ギリシャの10年債利回りは5月に再び30%台に上昇した。しかし、6月のギリシャの再選挙の結果を受けて、ユーロ離脱の懸念は後退した。イタリアやスペインなどに危機は伝播した。
結果的にこの市場の不安を後退させるきっかけとなったのは、2012年9月のECB理事会で償還期間1~3年の国債を無制限で買い入れることを決定したことによる。これを受けて、2012年9月初めに20%近くにあったギリシャの10年債利回りは2013年1月初めに10%近くまで低下した。
欧州株式市場の代表的な指数であるストックス欧州600種も2012年5月あたりから大きく値を戻している。
ギリシャに対してはEUなどによる支援策がリスク緩和要因となったが、その後のイタリアやスペインでの動揺の沈静化のきっかけはECBの無制限とした国債買入となっていた。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大による市場の動揺を抑え込むにも、まずは中国政府、そして日本政府など政府の対策が求められる。そして、もし株式市場や外為市場、さらには国債市場などがややオーバーシュートするようなことになれば、中央銀行による政策も必要になるかもしれない。
しかし、ギリシャ危機の際に近い緩和状態がECBでは維持されている状態であり、日銀はギリシャ危機の後退後に異次元緩和を行っている。このため、追加緩和策にもギリシャ危機のときのように有効手段が残っているのかはやや疑問もある。
ちなみに上記のように2012年にはすでにギリシャを含むユーロ危機は後退していた。ユーロ圏の周辺国の国債利回りは低下し、欧州の株価は上昇し、いわゆるリスク回避のアンワインドの動きがすでに出ていた。そうなれば当然ながら、円高が修正されつつあり、東京株式市場も反発地合にあった。
2012年12月あたりからいわゆるアベノミクスがスタートし、これで円安株高が進行したとの見方がある。確かに加速はさせたかもしれないが、それがなくても円安修正と株高は起きていたとみておかしくはない。