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原油価格はどこまで下落するのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 原油先物価格が今年に入って下落している。1月初めに65ドル台をつけていたのニューヨーク・マーカンタイル取引所のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は、その後、じりじりと下落し、2月3日に一時50ドルを割り込んだ。

 1月3日に、米国はイラクの首都バグダッドで行った空爆で、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を殺害した。これに対しイランがイラクの駐留米軍基地に十数発以上の弾道ミサイルを発射した。

 これを受けて原油の供給への懸念から、原油価格は上昇し、1月8日に65ドル台まで上昇した。

 ところが米国側に人的被害がなかったこともあり、イランと米国の軍事衝突という事態は避けられた。これにより中東での不安材料は一時的なものとなった。8日のWTI先物は65台から急反落となり、60ドルを割り込んで引けた。このあたりから、今度は下落基調となってきたのである。

 1月15日にトランプ米大統領と中国の劉鶴副首相は貿易交渉の第1段階合意に署名した。リスク要因がひとつ後退したにも関わらず、この日のWTIは57ドル台に下落していた。21日にかけて60ドル近くまでいったん戻したものの、ここから再び下落基調となった。

 その要因となったのが、中国の新型肺炎の拡大であった。21日に米国でも新型肺炎の感染者を確認したと発表された。IEAのビロル事務局長の発言を受けて、世界的な原油の供給過剰懸念が強まったこともあり、22日にWTIは56ドル台に下落した。

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大への懸念から、さらに原油先物は下落した。世界最大の原油輸入国である中国の石油需要が大きく減少したとの観測から、2月3日には50ドル割れとなったのである。

 OPECプラスでは協調追加減産を検討するとの報道もあったが、果たして協調追加減が可能なのか、また可能であっても協調減産で原油価格の下落にブレーキが掛かるかどうかはわからない。

 日本経済については10~12月期に一時的な減速となっても、その後切り返すというのがメインシナリオとなっていた。しかし、今回の新型肺炎の影響を受けて1~3月期の回復は難しいのではなかろうか。世界経済も同様であり、中国での企業活動の再開が遅れれば、サプライチェーンなどの影響により、日本を含めて各国の企業活動にも影響が及ぶと予想される。

 WTIは40ドルが大きな節目となっている。ひとまず40ドル近くまで下落する可能性はあるが、ここを下回ると下落ピッチが止まらなくなる懸念もある。原油先物価格の下落は物価動向にも直結することもあり、今後の動きに注意する必要がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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