自民議連によるデジタル通貨に対する提言の意味
7日付けの日経新聞電子版によると、自民党のルール形成戦略議員連盟(甘利明会長)は7日、デジタル通貨の発行準備を促す提言を決めるそうである。日銀は欧州中央銀行(ECB)などと共同研究に着手しており、提言は米連邦準備理事会(FRB)との連携も求めるとか。
この記事にもあったように、日銀やECBなど6つの中央銀行は、中銀によるデジタル通貨(CBDC)の発行を視野に新しい組織をつくると発表している。日銀とECB、イングランド銀行、スウェーデン中銀のリクスバンク、スイス国民銀行、カナダ銀行を含む6中銀と国際決済銀行(BIS)が参加する研究グループを新設する。
ここにはFRBは参加していない。世界の基軸通貨・ドルを発行する米国はデジタル通貨に対しては慎重な姿勢であるためとされる。
しかし、2月5日にFRBのブレイナード理事は、講演の中で「ドルの役割を踏まえると、デジタル通貨の研究の最前線にいることが不可欠だ」と述べ、デジタル通貨に対する研究や実験を進めていく方針を明らかにした(6日のNHKニュース)。
別に日本の議員に言われなくても、FRBもデジタル通貨について研究は進めるであろうし、日銀を含めた研究グループに協力、もしくは参加する可能性はある。
自民党のルール形成戦略議員連盟がこのような提言を行う背景には、当然ながら中国の存在がある。中国は中国人民銀行(中央銀行)がデジタル人民元の発行準備を進めており、実証実験を本格化するとされる。デジタル人民元が中国国内だけでなく関係国に拡がり、基軸通貨となっているドルを脅かすのではとの懸念もあってのものであろう。
研究を進めることは必要であるし、できればFRBと協力したほうが良い。だからといってデジタル通貨の発行を急ぐ必要はない。
中国のデジタル通貨発行の利点としては、決済のスピードを速め、送金等を容易にさせ、さらに紙幣の管理などの費用面を削減しうるなどがあげられるが、その発行体が通貨の決済状況を把握できるいわゆる可視化も目的となろう。使う側としては通貨の大きな利点である匿名性が失われる。
その意味で中国にとってはデジタル通貨を進めたい意欲が強いと思われる。しかし、日本や米国などにとって、その利便性は理解しても、マネーロンダリングや個人情報の流出、それ以上に暗号資産にみられたような流出のリスクに完全に対応しなければならない。
中国に通貨の覇権まで握られたくないとの気持ちもわからなくはないが、その発行には慎重さも必要で、国民の理解も当然ながら必要になる。FRBも日本の国会議員にそのような提言をされても困るのではなかろうか。