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米国とイランの対立による世界経済などへの影響はどうなる、最悪の事態は避けられるか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 この時点で、米国とイランの対立がどのような影響を及ぼすのかを予測するには、あまりに不透明要素が多いものの、ここまでの経緯から状況を確認してみたい。

 米国はイラクの首都バグダッドで行った空爆で、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を殺害した。

 イランは3日間の喪に服した後、ソレイマニ司令官の復讐を行うと宣言していたが、それを実行に移した。イランがイラクの駐留米軍基地に十数発以上の弾道ミサイルを発射したのである。

 これを受けての米国の対応が注目された。直接の軍事衝突の可能性もあったことから、8日の東京株式市場で日経平均は一時600円を超す下げとなり、ドル円は一時107円65銭まで下落した(円高進行)。

 米国のトランプ大統領は大統領執務室にてテレビ演説を行うとのCNNなどの報道があり、重要な決定後になされることが多い執務室からの演説ということで、イランとの交戦が発表されるのではとの懸念が一時強まった。しかし、このテレビ演説はないと報じられた。

 演説はなくてもトランプ大統領のツイートはあったようで、これによると、どうやらイランのミサイル攻撃による人的被害は抑えられていた模様。

 さらにイランは、アメリカがさらなる報復をしなければ攻撃を停止する、と表明したとされる(NBC)。

 これらの経緯をみると、米国政府はイランのミサイル攻撃による被害を確認し、その被害が抑えられていることも確認した上で、トランプ大統領の執務室からの演説はいったん中止したのではなかろうか。被害状況が確認できたため、トランプ氏はツイッターで、現状問題はないと投稿したとみられる。トランプ大統領は8日夜に声明を発表するとも報じられた。

 イランは3日間の喪に服した後、ソレイマニ司令官の復讐を行うと宣言し、実際にイラクの駐留米軍基地へのミサイル攻撃を行った。しかし、ここで米国での人的被害が発生すれば、米国の全面対決の様相を強めることになる。このため、攻撃したという事実を重視し、最悪の事態は避けたとみることもできよう。

 現状わかっているのは以上のこととなり、中東の地政学的リスクはかなり大きくなったものの、最悪の軍事衝突はお互い避けようとしているように思われる。ここで対決色を強めると、イスラエルも絡む上に、イランを支持するロシアや中国の動向にも影響を与えかねない。

 今回のリスク回避の動きは、ひとまず一時的なものとみられる。不測の事態が発生しない限り、これにより原油価格が急騰したり、株価が急落したり、金利が大きく低下することは考えづらいのではなかろうか。市場も次第に落ち着きを取り戻してくるとみられ、これにより世界経済に与える影響も限られたものになるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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