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世界最古の中央銀行がマイナス金利政策を解除、日銀はどうする?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 スウェーデン中央銀行のリクスバンクは19日、政策金利(レポ金利)を現在のマイナス0.25%から0%に引き上げると発表した。つまりこれはマイナス金利政策の解除ということになる。

 ちなみにスウェーデン中央銀行のリクスバンクは世界最古の中央銀行として知られるが、マイナス金利政策の先駆者でもあった。2009年7月にリクスバンクはマイナス金利政策を実施。この際は、下限金利であるところの預金ファシリティ金利をマイナス0.25%としたのである。また、リクスバンクは2015年2月12日に政策金利であるレポレートをゼロからマイナス0.1%に引き下げた。

 リスクバンクに続き、2012年7月にデンマーク中銀もマイナス金利政策を導入、2014年6月にECBも下限金利であるところの中銀預金金利(預金ファシリティ金利)をマイナス0.1%とした。そして2016年1月に日本銀行もマイナス金利付き量的・質的緩和を導入した。

 今回、リクスバンクがマイナス金利政策を解除したのは、景気の回復や物価の上昇が要因ではない。むしろ、景気は減速しつつあり、物価も2%には届いていない。それでもこのタイミングでマイナス金利政策を解除したのは、副作用が無視できなくなってきたためである。

 マイナス金利政策の導入の際には、それによって通貨安をもたらすことも意識されたとみられるが、産業構造の変化によって通貨安が景気にもたらす好影響は限定的となってきた。これは日本も同様である。また、マイナス金利政策による影響もあっての家計債務の増加などもスウェーデンでは懸念されていたようである。

 マイナス金利の副作用が効果を上回るリバーサルレート論も出ているが、日本の状況をみても特に金融機関に与える悪影響は大きい。これにより、その負担分を個人に向けるなどの動きが日本でも出てきている。

 ECBは今年9月の理事会で、マイナス金利の深掘りを含む包括緩和策を決定した。しかし、これはドラギ総裁の置き土産というべきものであり、ドイツなどの反対を押し切って無理矢理決定したものである。フクロウ派と称するラガルド新総裁はいずれこの修正を試みる可能性がある。

 ECBの追加緩和策もあり、日銀もマイナス金利の深掘りを検討していたようだが、外部環境の改善、これはつまり米中の通商交渉などの行方ということになるが、これの改善などもあって追加緩和は見送った。

 ECBもさらなるマイナス金利の深掘りは可能とのスタッフによる論文を出している。日銀もECBも追加緩和は可能と主張し、選択肢として深掘りを上げているが、それは追加緩和ありきという考え方が前提にある。

 すでに追加緩和をすれば良いという状況ではなくなってきている。深掘りもなにもマイナス金利政策の弊害こそみるべきものであり、それを続ければ続けるほど弊害は大きくなる。それは決して、景気や物価に好影響を与えるものではない。それも見越しての今回のリクスバンクの動きとなっていよう。

 日銀はマイナス金利政策を解除することはできないとの見方も強い。特に黒田総裁がマイナス金利政策を選択したとの見方もあり、その解除のハードルは高いかもしれない。しかし、今後はむしろ世界的にマイナス金利による弊害がクローズアップされることも予想される。

 ECBでもドイツなどのタカ派だけでなく、ハト派とされるイタリアの参加者などからもマイナス金利の効果は小さいとの声が出ている(20日付日経新聞の記事より)。ドラギ総裁からラガルド総裁に代わったことにより、ECBはマイナス金利の解除も容易になったとの見方もできよう。そうなると最後に日銀だけが取り残されるという可能性も出てくる。日銀も解除にむけたロードマップを模索する必要があるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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