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日銀の福井マジックが効果的であったと思う理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2003年から08年に日銀総裁を務めた福井俊彦氏が日銀に対し任期中の出来事を語った口述回顧が明らかになったと29日付日経新聞が報じ、その内容をまとめたものも紙面上にアップされた。

 これによると、2003年3月20日に福井氏が総裁に就任し、25日に日銀は臨時の金融政策決定会合を開催した。この際には「臨時」の会合を開催したにもかかわらず、その結果は現行の政策を維持することを全員一致で決定した。ただし、そのあと開催された通常の政策委員会(毎週、火曜日、木曜日)において、銀行保有株買取枠を2兆円から3兆円に拡大した。これを政府は高く評価した。この臨時の会合の開催について福井氏は下記のように語っていた。

 「まず(現行の日銀法のもとで初の)臨時の金融政策決定会合を開いた。(開催には)政策委員会メンバーの中にすごい抵抗があった。私にも理解できたが、1回だけ(開催を)許してよという感じだった。」

 この動きに対して市場は、さすが福井総裁、ハト派としての本領発揮かとの見方も出ており、メディアや政府も好意的な見方をしていたと思う。しかし、私自身はハト派ではなく、タカとまでは言えないまでも失礼ながら、同じ猛禽類でも鋭い爪を隠したフクロウなのではないかと当時みていた記憶がある。

 「着任後は、長期国債は買い増ししないとひそかに心に決めた。(速水優)前総裁の時に随分増やしたが、あの時は量的緩和をやろうと思ってもなかなか金融機関が応札してくれないということがあったとすれば、やむを得なかった。私は長期国債を抱え過ぎて、あとでポートフォリオのバランス上、非常に問題が起こる、あるいは財政政策との敷居が低くなり過ぎるというリスクは避けようとした。」

 これについては日銀に関係する拙著でも何度も指摘していたが、国債の買入については福井総裁となってからは増額されなかったのである。福井総裁は緩和に積極派との見方があった。確かに福井総裁に代わってからも、日銀の当座預金残高目標の引き上げは数度にわたって行われ、2004年1月には当座預金残高目標が30~35兆円程度にまで引き上げられた。しかし、国債の買入を行わないことで出口戦略も意識していたと私はみていた。量的緩和政策の解除にあたって、次のようなことも福井氏は語っていた。

 「資金吸収は、中曽宏金融市場局長といつも計算しあっていた。量的緩和の打ち止めを決めたら、できれば3カ月、長くとも5~6カ月以内に過剰流動性の吸収が(国債の)売りオペなしに満期が来て自然に償還される状況にしておいてくれと。」

 出口を見据えた中途半端な金融緩和だから物価は2%に上がらず、緩和効果が乏しかったとの見方もある。今回の日経の記事にも最後に「今の日銀が大胆な緩和策を余儀なくされた背景に、過去の緩和策が不十分だった点があるとの批判も出ている。」とあるが、大胆な緩和をしても結局物価は上がらない現状をみれば、この指摘は間違っていることがわかろう。大胆な緩和策を余儀なくされたのは、間違った理論の主張を素直に取り入れてしまったことにある。

 本来の日銀の金融政策で重要なのは、市場マインドを変化させることであり、それには福井マジックとも呼ばれた福井氏の手法のほうが、より適切、より効果的であったと私はみている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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