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消費増税による影響

久保田博幸金融アナリスト
(写真:吉澤菜穂/アフロ)

 10月1日に消費税が8%から10%に2%引き上げられた。消費増税にあわせて政府主導で始まったキャッシュレス決済のポイント還元制度を追い風に、現金を使わない決済が急増していると7日に日経新聞が報じていた。

 NHKでも「キャッシュレス倍増のスーパーも」と報じていたがそのなかで、下記のようなコメントがあった。

 「店員からの説明ではじめて自分が持っている電子マネーやクレジットカードが制度の対象だと知ったという人も目立つということです。」

 政府もキャッシュレス決済のポイント還元制度に対して、周知を図るべくしていたようだが、それはそれほど浸透していなかったということかもしれない。

 そもそも今回のキャッシュレス決済のポイント還元制度に対しては、キャッシュレスとはQRコード決済との認識を持っていた人も多かったのかもしれない。QRコード決済を使っていない人でも、電子マネーのカードやクレジットカードを持っている人は多いはずである。それを使えば店舗によってポイント還元制度の恩恵を受けられる。

 キャッシュレスは遅れているとされる日本でもキャッシュレスは普通に使える環境にある。ただし、利用者からすれば現金の利用も楽なことや、店側とすれば手数料が必要で、収入にタイムラグも生じることなども、キャッシュレスの利用を妨げているのかもしれない。

 共同通信社が5、6両日に実施した全国電話世論調査によると、消費税増税後の日本経済の先行きについて「不安」「ある程度不安」を感じているとの回答は計70.9%だった。増税に伴い導入された軽減税率制度は複雑だと思うが82.4%に上ったそうである(7日付産経新聞)。

 たかが2%、されど2%の引き上げであり、個人消費への影響も避けられないのは確かなのかもしれないが、これが主因で日本経済が悪化するということも考えづらい。やはり外部環境、特に世界経済の動向次第ではなかろうか。

 前回の5%から8%への消費税の引き上げのタイミングで、消費者物価指数はピークアウトしていた。そのタイミングはちょうど日銀が異次元緩和を決定した1年後でもあった。異次元緩和を決定した月から消費者物価指数(コア指数)は前年比で上昇してきており、1年後にプラス1.5%となった。そこから前年比のプラス幅は縮小していく。

 これだけみると日銀の異次元緩和が物価を引き上げ、消費増税でブレーキが掛かったかにみえる。しかし、日銀の緩和策が即効薬のように働くことは考えづらい。さらに本来であれば、便乗値上げなどから物価の引き上げ要因ともなりうる消費増税が直接、物価の低下要因と決めつけることにも問題がある。

 むしろ、このときの物価の動きには別の側面からみたほうが説明が付く。これは為替や株価の動向とともに、駆け込み需要とその反動などによる影響が大きかったとみて良いのではなかろうか。

 今回も駆け込み需要はあったようだが、前回ほどではないように思われる。ただし、米中の貿易摩擦の悪化などから、世界的な景気の落ち込みも懸念されている。そこに個人消費がやや低迷し、国内景気も悪化してくる可能性はありうるか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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